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第24話 感情の具現化


「私は、人の感情を具現化したカケラを七つ集めて機械にセットして、それをもとに虹をつくる。こうすることで、えも言われぬ感情を抱える人々や、大きな思いを抱く人たちの感情はショウカされ、虹という形で少しの時間の後消えていく」

「……消化って、消えてしまうってことですか」


 キラは急に、とてつもない事実を突きつけられてしまったせいで、これくらいの問いしか口に出せなかった。この六日ですっかり抜けた敬語が戻ってしまうくらいには混乱していた。


「その意味も、全くないとは言えない。重苦しくて抱えきれない感情を持つ人の場合はそれを軽くしたいと望んだ結果、形を変えるんだ。でも消える訳じゃない、と思う。それとこう言うのが正しいかは私にも分からないけれど、芸術家がその激情を作品に移して表現するような意味合いもあるはずだ」


 やけに精彩をかいた言葉だった。しかしそれも当然であった。なぜならニジノタビビトは、記憶喪失になってしまっているせいで具現化できるほどのえも言われぬ感情や大きな思いも持ち合わせていなかったのだから。自分は使ったことがない、否、使えなかった。


「禁術というふうに称されることがあるのは知っているよ。でも感情は消えないし、欠けないし、壊されるようなものではないんだ。ちゃんとこの宇宙船に実験結果が残っているんだよ。それに、私は記憶喪失だけれど、虹をつくることに関してはきちんと覚えていたから……。本当だよ」


 キラは信じたかった。でも、記憶喪失の人間が覚えているという記憶に欠落がないだなんて誰も証明できないことだと思ったのだ。残っているという実験結果も誰がどういう目的で行って、どういう形で記録されているのか分からない以上、完全に信頼する要素にはなり得ない。

 キラはたくましく、冷静で明るく現実主義者であった。だからその冷静な頭でニジノタビビトの話を勘案していた。そして冷静に現実を突きつける頭と、このもう大事な隣人で友人で協力者である人を信じたいという思いとで板挟みになって、何も言うことができなかった。


 二の句が継げないキラを見て、ニジノタビビトは唇を噛み締めて堪えると、少し待った後また話し始めた。


「ねえ、キラ。この宇宙船の燃料、それから食料購入とかの資金はどこからきていると思う?」


 ぐっと喉が詰まった。考えなかった訳ではなかった。生きていくには金がいる。何をするにも金がいることはキラは身に染みて分かっていた。伊達にこれまでさまざまなアルバイトを掛け持ちして学費と生活費を稼いできた訳ではない。


「この宇宙船は虹ができたあと協力してくれたえも言われぬ感情を抱える人々や、大きな思いを抱く人たちの了承の上でカケラをいくつか、あるいは全部貰って、そのエネルギーで動いているんだよ。資金は元々宇宙船に残っていたものと、宇宙船で別の星に荷物を運んだり、さまざまな星の特産品を売ったりして稼いでいるのを使っているんだ」


 ニジノタビビトはできるだけ感情を押さえつけるようにして語った。資金源の話は一杯一杯になって口からついて出てしまっただけだが、この宇宙船は、いずれ惑星メカニカに向かう宇宙船には、キラが良くないことだと言われて育ってきた感情の具現化の技術が根底にある。

 これだっていずれ分かることなのだから、話しておかなければいけなかった。


「虹になった後のカケラにはエネルギーが宿るんだ。そのエネルギーを使わせてもらったあとのカケラは綺麗な結晶として残るから、大切に保管してるよ」


 もうニジノタビビトはキラに何を告げればいいのか分からなくなっていた。できる限りキラを怖がらせないように、理解してもらえるように話そうとしてこんがらがってしまっていた。うつむきがちになっていた視線をそっと上にあげると目に見えて困惑しているキラがいた。ニジノタビビトは喉をグッと小さく鳴らしてもう一度堪えた。


「キラ、ごめん。こんな話をしてしまって。でもせめて、明日以降、私が何をするかよく見ていてほしい」


 ニジノタビビトはもう一度ごめんねと謝ると逃げるように自室へ引っ込んでしまった。その表情は泣きそうに歪んでいた。キラはああ、あの人が泣きたくなるような出来事に俺が関わっているのかと少し外れたことを考えていた。


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