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第202話 翡翠の渦のメモ


 実は、キラがこの宇宙船に乗って間もない頃、ラゴウとケイトともまだ出会うどころか惑星クルニについてすらいない頃に《翡翠の渦》についてメモにまとめたことがある。これはニジノタビビトとの日常をまとめた日記とは別の紙に書き記してあった。

 これは、別に誰に求められてというわけではなかった。強いて言えばあの時はニジノタビビトに宇宙船に乗せてもらう条件として《翡翠の渦》がなくした記憶の手がかりとなるかもしれなかったから話す前にまとめておこうと思っただけで、もちろん惑星メカニカに戻って体験記とかを書いてやろうとかしたわけではない。その時は故郷の星に帰ることに必死で帰れた後に色々聞かれることになるかもしれないというのは頭の片隅にもなかったのだ。

 今になってみればあまりに劇的な出来事と言えど当時のように正確に、例えば感じたことや微妙な感覚の話なんかはあの時だから言語化できていたものも多いだろう。


 その記憶についても惑星クルニに着くまではメモを元に少しずつニジノタビビトと色々話をしたりしたものの、着いてからは虹をつくることで手一杯だったこと、そもそもキラ自身が情報をそこまで持っていなかったことによって惑星クルニを飛び立って虹をつくることからひとまず解放されても特に話題に上がることがなかった。

 いや、正確に言えばキラの方から一度話題に挙げた。というのも惑星クルニに着く前は折を見てニジノタビビトの方から《翡翠の渦》について聞いていた。だからキラはまた聞かれるかと思ってどうにかこうにか思い出したことを話せるように準備していた。それも搾りかすのように細々としたものでしかなかったが。

 しかし惑星クルニを飛び立ってからいつまで経っても聞かれなかったのでそのままにしていたのだが、このことがキラの頭の中にずっとあって、もうあまり話せることがないので自分の首を絞めることになりかねないと思いながらも、ある時一度良心の呵責に耐えきれず思い出した搾りかすのようなことを話した。

 そしてこれ以上何も《翡翠の渦》についてもう話せることがないと告げた時、ニジノタビビトはすっかりそんなことがあったなあとでもいうような顔をして、なんでもないように「そうなんだ、分かった」とだけ言った。

 それに呆気に取られて、ニジノタビビトはそんな人ではないと思いながらも、これを言えば万が一か億が一くらいで宇宙船を下ろされかねないのではとも思いつつ宇宙船に乗せてもらうための条件の話をしたところ今度はああ、という顔をして「そんなこともあったね、でも色々料理とかしてもらってるし気にしなくていいよ」との返答が返ってきたので、自分はそれに甘えざるを得ないのを棚に上げてニジノタビビトの警戒心が心配になった。


 はてさて、そういうわけでキラは日記やニジノタビビトに渡そうと思っているレシピが置いてあるデスクからメモを引っ張り出して、コップ二つと未開封のクッキーひとつとお菓子のゴミと通信機と、論文を読みながら自分の時はこうだったかなと思い出しながら書いているメモの乗ったテーブルのところへ戻った。

 そして約四ヶ月前の自分が書いたメモをまず上から順番に読んで時系列順には並んでいないそれに過去のことから順番に番号を振ってそれの通りに別の用紙に書き出してみることにした。



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