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第200話 たくさんの人とカメラ


 一人目の被害者とその時の翡翠の渦については二人目の被害者の事件よりも過去のことである上に、初めての被害者ということもあって爆発的に報道され、取材陣がこの地域に何日も張り付いていたことによる影響なのか話を聞こうとすると断られることが多く、あまり手応えというものが得られなかった。

 特に二人目の被害者についてもそうだったが、「被害者について知っている人」つまり知人友人、親族を探すのに難航していた。



「そういえば、何日も同じような中継があったかもな……」


 キラは当時の記憶を引き出しから取り出した。

 最初の被害者がうまれてしまったのは八年前、初めて《翡翠の渦》が確認されたのと同じ年のことだった。気味の悪い現象だと言われ、蜃気楼だとか排気ガスと風によってできたとか集団幻覚とすらまで言われたが、結局何か分かっていなかった時に起きてしまった。

 あれがまさか人を吸い込んで何処かにやってしまうだなんて誰も思いやしなかった。だから人が消えてから毎日毎日朝から晩までテレビで特集が組まれ、中継がされていたのをキラも覚えていた。

 あれだけ朝の情報番組から夜の報道番組までどこのチャンネルでも中継されていればもうそこには白くて緑色の渦も消えてしまった人もいないのに現地リポーターと言われる人、カメラマンなどのテレビ関係者が大勢いただろうし、それ以外の新聞や雑誌なんかの報道関係者なんかも大勢いたことだろう。

 これは偏見かもしれないが、キラはこういう状況の時にトラブルというのは絶対に発生すると思っている。キラも人並みにSNSやってきたので度々タイムラインにもそういった情報が流れてくることがあった。たとえばゴミの問題とか、車道に駐車された車、人や脚立で塞がれた歩道、敷地内への不法侵入なんかは見たことがあったので想像がついた。

 最初の被害者がうまれてしまった現場でこれらのことがあったと確信を持っては言えないが、もちろんないとも言い切れない。そういうトラブルがなくてもご近所のチャイムを鳴らして取材させてくださいなんていうのは散々いたことだろう。


「そうしたら、ま、《翡翠の渦》の話を聞かせてくれなんて警戒されるだろうな……」


 このサルニ・ガロンの年齢がいったいいくつなのかキラは知らないが、息子が独り立ちしていると書いていたから五十代とか、六十代前半とか、自分のことを老いぼれと言っているあたり六十代後半以降かもしれない。そう言った年齢の男性に急に《翡翠の渦》について話を聞かせてほしいと言われてしまって警戒する人はそりゃあいるだろうと思った。

 それをサルニ・ガロンも分かっているから二人目の被害者とその時の《翡翠の渦》について聞き込むときに距離感や自分の立場を話すことを心がけていたのだろう。

 むしろサルニ・ガロン地震が被害者の家族としてそういう経験をしてきてしまった間である。


「なんか、やるせないなあ……」


 キラはすっかりサルニ・ガロンに思いを馳せてその心情に、《翡翠の渦》の被害者としても同情となんとも言えない思いを抱きながら顎をさすった。



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