第199話 徹夜の腹をくくる
「うえ、なんか疲れてきたな……」
キラは今になってこれは真夜中にすることではなかった気がしてきていた。時計のはりが進むごとに瞼は重くなってきていて、あくびだって大きなものが出るのに、ブンブンと脳をフル回転しているからか頭がスッキリしてすらいる気すらしていた。
キラは誰も見ていないからと大口を開けて涙をこぼしながら時計のメモリを見た。いつの間にかこれから寝るとなるともはや仮眠になってしまうような時間になってしまっている。
「いや、いやいや。俺まだ若いし……」
年を楯に取るというのは後々しっぺ返しが来るとかよくないとかいうのは聞いたことがあるが、年を楯に取れるのは今だけだとキラは腹を括って徹夜をすることを決めた。
そしてそうと決めたのならば、と脳が糖分が足りなくなると嘆く前にキラはキッチンに行ってキャンディーをいくつかと個包装のクッキーを二枚、それから冷蔵庫から浄水を足したコップともう一つ紅茶を注いだコップも持って自室に戻り、開き直ってやっと部屋の電気もつけた。
それから、ふと深呼吸をすると脳に酸素が言って眠気が改善されるというのを生物の授業の時に先生が言っていたことを思い出したので、立ち上がって体操の最後ののように腕を大きく動かしながら吸って吐いてを繰り返した。
深呼吸をしたことで眠くなくなったかというと今の状態が通常の眠い状態とも違うのでちょっとよく分からないが、まあ何となく眠くはなくなった気がするとパンパン軽く頬を叩いて充電コードを繋いだ通信機の画面に向き直った。
私は一人目の被害者が巻き込まれた場所に行ってまた聞き込みを始めた。
初めての被害者が確認されたのはノガナ地区の駅まで一キロ未満という住宅街と繁華街の中間にあるような場所だった。それは道の真ん中に発生したが、そのとき、たまたま車は通っていなかったそうだ。
道の中央に発生したこともあって人の注目はすぐに集まった。近所からそれを見にわざわざ顔を出す人、通りすがりで足を止める人など野次馬が多く集まっていたという。
その中の誰かが警察に通報していたらしく、被害者が翡翠の渦と共に消えてからすぐに到着したという記録が残っている。
最初の被害者ははじめ野次馬の中に紛れていたらしいが翡翠の渦を中心に一定の距離をあけて円となっているところから一人外れて前に進み出て、近くでそれを凝視した後、誰かが止める間も無く手を伸ばしてしまったという話だ。
私は二人目の時と同様に適宜自分が三人目の被害者の親族であることを明かしながら「翡翠の渦の発生から消失までを見ていた人」、「被害者について知っている人」を探し始めた。