第198話 二例目の翡翠の渦
一人目の被害者は翡翠の渦がどういうものなのか知らずに好奇心で手を伸ばしてしまったことによって生まれた被害者だと言われている。警察の発表でも目撃者の証言によってそうだとでている。
ただその最初の被害者について、いわく、被害者は好奇心が旺盛だった、とか、慎重な性格だったのに何かに魅入られたようにその手を伸ばしてしまった、だとか色々な話が出ていて何が本当なのか定かではなくなってしまっている。
こういった世間の注目を集める不可思議で異常な事件の被害者はその知人友人学生時代の同級生という人間が溢れかえるのも事実だろう。
そもそも翡翠の渦が確認されて二例目で起きた事件であるので、根拠のない説や考察などがテレビでも新聞でも本でも、もちろんインターネットでもさまざま取り沙汰された。
一つ目の翡翠の渦が観測され、まだその名がついていなかった時、よく分からないものなので近づかないでくださいと報道番組で見た記憶がある。
しかし、そのサラッとした忠告を聞き入れず、あるいは知らなかったかした被害者が白くて緑色の渦に吸い込まれて消えたこともあり、火がついたように各所でアレは何だと騒がれるようになった。
初め近づかないでくださいと軽く忠告するだけだった警察も大きな会見を開いて大々的に警報を出すことにすらなった。
キラも、この時のことは覚えている。学校からも、当時まだ身を置いていた施設からも何度も何度も口酸っぱく「白くて緑色の渦を見かけても絶対に触るな」と言われ続けた。施設にいたまだ幼い子たちにはお化けに連れて行かれてしまうとも言っていた。
実際、こういう変な怪談話みたいなものはお化けではないにしろ子供たちを守るためにあるものが変容したり大きくなってしまったりしたものが多くある。そういうのはたいてい人間にさらわれたり犯罪に巻き込まれたりしてしまわないように子供を脅かすというのが大半だが、この「白くて緑色の渦」も正体が分からないという点ではお化けというのもあながち間違いではないかもなあと思った記憶があった。
この八年、本当にさまざまな人があの《翡翠の渦》についての見解を示した。特に二例目、初めての被害者が出てからはよく分からない肩書きがたくさんついた大学教授、科学者、宇宙学者、それからオカルトについて詳しい人だとか、霊能者だとかまでコメンテーターとして夕方の情報番組に毎日毎日出ているのを静かに課題をしたいと入れてもらった職員さんたちの部屋で見たことがあった。
数学の問題を解きながらこの人たちは何を言っているんだかと子供心に呆れたのを覚えている。
しかし今思えばそれも致し方のないことだったのだろう。だってあんなもの誰も何も分からない。でも何も報道しないわけにもいかない。子供が分かったのだ、テレビ関係者だって当然理解していただろう。
あの時分かっていたことといえば「ときどきどうしてか発生する白くて緑の混じった渦がふれた人を吸い込んで消えてしまう」ということだけ。いつの間にか誰が言ったのかも分からないがその色から《翡翠の渦》との名がついたものの巻き込まれたキラだってあれが何なのか分からないものだった。