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第197話 サンプルの数


 翡翠の渦が発生したスーリー地区と被害者が在住していたというテルリ地区は隣接しているが、発生地である公園は中央公園という名の通りスーリー地区の中央に寄っている。その距離、テルリ地区とスーリー地区の境目からおよそ三キロ。往復で六キロ以上なので散歩にしては少々長い距離ということになる。

 流石に新聞には詳細な住所が書かれていなかったし、どうして個人を特定できているのかも書かれていない。しかし他の新聞も調べたところ、この新聞が最も早く被害者の居住地を報道していた。

 ただ、とにかく私が知りたいことは「息子とその恋人の所在」で、今調べようとしていることはあくまで「二人目の被害者について」であり、しかしながら現状それは「翡翠の渦の先」について知ることに繋がりにくいと考えたため、不審な点は残るものの一度後回しにして一人目の被害者が吸い込まれた時のことについて調べることにした。



 キラは難しいなと思った。《翡翠の渦》は初めてその存在が確認されてから八年、十四件が記録として残っている。そのうち人が巻き込まれたのはキラのを含めて四件、三件目の被害者が二人いるため被害者は五人だ。つまり、検証するにはあまりにもデータが少ない。

 彼がこの()()を調べながら書いているのかまとまってから書いているのか分からないが、ここまで五人目であるキラの四件目の事象が登場していない。

 だからどれだけ《翡翠の渦》の目撃者について調べようが、その時の被害者の状態を知ろうがサンプルが少なすぎて巻き込まれた被害者がどこに行ったかなんて余計分かるようなものではない。

 キラは自分が《翡翠の渦》に巻き込まれた場所と自分が飛ばされた星をメモに追加した。これは警察に供述したのとは違う正しい星だ。しかし「準惑星アイルニム」と書き記してからメモとして文字に残すのはニジノタビビトがまだ惑星メカニカにいる間は早いかと思って今はまだ、と消しゴムで消した。


「しかし、なんか、変な感じだなあ」


 キラはペンを置いてぼやいた。

 サルニ・ガロンは自分の息子とその恋人の行き先を確かめることがおそらく一番の目的だから気になりつつも後に回したが、キラは魚の骨が喉に引っかかるような変な感じが残っていた。

 スーリー地区の地図を見れば駅もバス停も多くあるのでそれらを乗り継いできた可能性だってあるし、ただ三キロの距離を歩いて移動すること自体もたとえば運動を習慣にしているとかであれば何もおかしいことはない。

 だがしかし何か……。


「まあ、考えすぎ、か……」


 キラは通信機の画面から目を逸らさずに汗をかいているコップを掴んで指先を濡らして水を飲んだ。

 キラはその場面を見ていないし、スーリー地区だって近くない。これだけで何か判断するのは流石に早計すぎる。


「いや、なんかもう分からん」


 キラは大きく息をついて頭を振って変な疑念を吹き飛ばしてだんだん疲れてきた目を瞬きを数回して誤魔化してから続きを読み始めた。



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