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第196話 稚拙な論文


 名前を知っているといった人もニュースで見たという人ばかりだった。そこで私は二人目の被害者はこの公園周辺に住む人ではないのではないかと考えた。被害者の遺留品にバックはなく、遺体が発見された場所の近くにもなかったという。目撃者の女性も荷物は持っていなかったと語っていたし、翡翠の渦が消えた後にも何も残されていなかったといっていたことから身軽だった被害者は近所に出かけただけだと考えていた。そこで二人目の被害者が吸い込まれた翡翠の渦が発生した公園を中心としてじわじわと探す範囲を広げたのだがそれでは成果を得られなかった。

 そのため、図書館に足を運んで地方紙を含め徹底的に当時の新聞を調べた。そこに被害者がどこ在住か書いてあるものがあるのではないと思ったためだ。

 そこで見つけたものが以下の通りである。


『翡翠の渦二人目の被害者』

 スーリー地区にある中央公園にて五例目となる「翡翠の渦」が確認され、一人の男性が巻き込まれた。男性はテルリ地区に住む三十二歳のテルラッテ・ストルク氏とみられ、警察が調査を行なっている。(スリテル新聞社五月九日の朝刊より)




「え、これ参考文献にあったか?」


 キラはページを迷ってしまわないようにノンブルの番号を覚えて終わりの方にある参考文献のページに飛んだが、この新聞については書かれていなかった。

 参考文献をこんな書き方をしたら怒られそうな稚拙さだった。しかし、キラも読んでいるうちに思ったことだがサルニ・ガロンはこれを論文と称することで翡翠の渦について調べようとした人の目にしかつかないようにしているとも考えられた。

 おそらくサルニ・ガロンはそんなことどうでもよかったのだろう。今だって、少なくともこれが出た当時は彼の息子とその恋人の手がかりが見つかっていないと書かれていた。こんなふうにまとめはしたが、それもおそらく立場を同じくする《翡翠の渦》に巻き込まれた人の家族や友人が調べた時ようにとインターネット上に公開しただけなのではないだろうか。

 確かにこれがブログなどに掲載でもされれば彼の嫌うSNSの拡散に繋がりかねなかった。論文でもその可能性はあるだろうが、「ブログ」と「論文」では読む側のハードルに大きな差が出ることだろう。

 これはやはり論文とは言えない。書き方も引用も参考文献も章立てだって今までキラが学生なりに読んできたものとは遠く離れる。論文の毛皮を被った手記のようなものだ。しかしその内容は、彼の思いは深く、底を覗くことができない。



 私も二人目の被害者の名前を知っていたが、誰だか特定できたということは彼を知る人物がいたということに他ならない。それはあの場所にいた人か、写真や映像を見た人のみに可能なことだろう。

 しかし目撃者の話によれば翡翠の渦が発生してから消えるまでは本当に短い間だった。しかも話を聞いた女性は「自分が周りで一番に気づいた」と言っているのだ。

 そこから私はこの人物を特定したのは防犯カメラの映像によるものではないかと考えた。



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