第194話 翡翠の渦に吸い込まれる時
サルニ・ガロンは変わらず二人目の被害者の知人を探しながら、自分が見た《翡翠の渦》と目撃者の女性の証言を紙に書き出し、表にして比べた。
そして自分の脳裏に焼きついたものの高温すぎたせいでところどころ白飛びして思い出しにくいあの時のことを繰り返し繰り返し苦しみながら思い出して紙に書き付けた。
私の記憶と、二人目の被害者が翡翠の渦に巻き込まれる場面を目撃した人との証言を照らし合わせた結果分かったことがいくつかあった。
一つ、私の息子は座っていた状態で、二人目の被害者は歩いている状態で翡翠の渦に巻き込まれた。つまり、この件においては私の息子よりも息子に手を伸ばした結果巻き込まれた恋人と二人目の被害者の方が状態としては近い事になる。
一つ、二人目の被害者は意識を失った可能性があるということ。これは確かではないものの、私が認識していないものだった。
こちらは逆に息子の恋人が渦に呑まれるまで目を開けていたのを覚えていることから、目撃者にこの話を聞いたときにこれは決定的に違う点だと思った。しかし情報をまとめるうちにそうではなかった可能性が出てきた。
私は目の前で二人が吸い込まれていくのを何もせずに見ているしかできなかったが、逆に言えば凝視し続けていた。その時咄嗟に息子の恋人が手を伸ばしたのに目と意識がいっていて今回話を聞くまで気づかなかったが、息子が座った場所に重なるようにして発生した翡翠の渦の中心は息子の肩の辺りで、そこから渦が広がってしまったせいで、私は消えゆく息子の表情を覚えていない。
そして息子は声も上げられず何も分からないまま吸い込まれてしまったのかと思ったが、すでに意識がなかった可能性がある。これは目撃者の話を聞かなくては分からないものだった。
翡翠の渦は発生中に渦に触れてしまった人を吸い込む。人を吸い込まなかった場合には時間経過で消失するが、人を吸い込んだ場合にはすぐに消える。
また巻き込まれる人は吸い込まれる時に意識を失っている可能性があるが、少なくとも顔の部分が呑み込まれるまでは意識を保っていた例がある。
キラは確かに、と思った。自分が《翡翠の渦》に巻き込まれた時、自分包み込む色を覚えているが意識が薄れていったことも自覚している。そして気がついた時には知らない草原の上に横たわっていた。
キラは一度席を立って紙とペンを用意し、自分時のことを思い出しながらメモをとることにした。これはもちろんニジノタビビトのためであったが、ニジノタビビトを無事に見送った暁にはこのサルニ・ガロンという人に伝えなくてはいけないと思ったからだった。