表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
193/204

第193話 目撃者の証言


 キラは照明のついていない暗いキッチンで、それでも暗闇に慣れた目は真っ直ぐ冷蔵庫の方に向かうとコップに浄水をバシャっと少々乱暴に注いでぐっとあおって冷たい水でいつの間にかカラカラになっていた喉を潤した。一気に飲み干して、少し考えた後もう一度水を汲みコップを持ってキラは部屋に戻った。

 コップをテーブルに置いてその水がこぼれないように窓際までテーブルを持っていくと改めて通信機を手に取って、フーと深くため息をついて心を決めてからもう一度画面に向かった。



 サルニ・ガロンのまずは見たことを教えてほしいという言葉に女性は記憶をたぐり寄せながら初めから順に語った。

 それは突然発生した。音もなく、気配もなく。たまたま視野の範囲に発生したから目に入った。最初に悲鳴を上げたのは自分だった。それも、絹を裂くような悲鳴ではなくヒッと喉が引き攣るようなものだった。近くにいたママ友が自分の視線の先を追って悲鳴を上げた。それはどんどん伝染していった。その時にはもうすでに人が渦の中心に吸い込まれつつあった。

 人が吸い込まれていく様を見ているしかできなかった。子供たちがその渦に近寄らないようにするので精一杯だった。

 異常な光景が何もなかったかのように落ち着いてから、あれが翡翠の渦だとニュースで騒がれていた人を攫うというブラックホールのような、片道切符のワープホールのようなものだと気づいた。


 それからサルニ・ガロンは目撃者の女性に幾つか質問をした。

 何もないところから発生する場面を見ていたかどうか。女性の回答は是だった。

 では発生の仕方はどうだったか。女性は視界の端に何か変な白いものが見えた気がして最初それは衣服の何かだと思った。しかし思わずそちらの方を向いてその白いものに薄緑が混ざっているのに気がついた。その次の瞬間には中心から渦を巻くように広がっていってその場所にいた人を飲み込んでいたと語った。

 では被害者のその人は最初からその場所にいたのか、それとも歩いていてその変な白いものに気づかずにそのまま突っ込んでしまったのか。女性は後者だと答えた。しかし自分が変な白いものを視界の端に見てから渦が広がるまで三拍ほどしかなかったため巻き込まれた人の腰より下のところに発生したそれは被害者の視界に入らなくても仕方のないことだったと思ったという。

 被害者は何か言葉を発していたか。女性は少し考えて否と答えた。その人は一気に広がった渦の中心に触れたかと思うとぐらりと後ろの方に傾いたのを見たと言った。

 つまり、バランスを崩したか意識を失うかしたと。女性は被害者の背中が見える位置にいたので顔が見えていた訳ではなく定かではないが、どちらかといえば意識を失ったように見えたと言った。



 サルニ・ガロンは最初の挨拶以降口出しもせずに見守ってくれていた女性の夫に許可を取って連絡先を交換、また何か質問ができればメッセージでの回答を依頼した。女性とその夫はサルニ・ガロンがどうしてこんなことをしているのか聞いていたので快く承諾してくれたそうだ。

 同じく《翡翠の渦》の目撃者であったサルニ・ガロンは事象を洗い、準えるように確認する問答であったが、自分が見たものと違和感を感じるものが二つあった。

 それは「被害者から翡翠の渦に入っていったこと」と「被害者が意識を失った可能性がある」というものだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ