第191話 翡翠の渦の発生場所
まず私は徹底的に『翡翠の渦』について調べるところから始めた。
情報が少なく苦労したが、これまでの情報を洗い、発生現場に足を運んで聞き込みを繰り返した。
これは今までキラが読んできた論文とは違った。どちらかと言えばレポート言われた方がしっくりくる。しかし筆者、サルニ・ガロンはそんなことはどうでもよかったのだろう。彼にとって大事なのは息子と息子の恋人がどこにいるのか。……生きて、いるのか。
キラは一度ホーム画面に戻して検索エンジンを開いて「翡翠の渦 発生地」と打ち込み検索した。
《翡翠の渦》はなにも毎回人を、生物を巻き込んでいるわけではない。被害者のいる件が注目されがちだが、発生しても誰も何も巻き込まずに警報が発令されて何事もなく解けるように消えたという方が実は多い。現在記録されているのが全てで十四件、うち人が巻き込まれたことが確認されているのが四件で、被害者はキラを含めて五人。
その三件目がこのサルニ・ガロンの息子とその恋人だ。そしてキラは四件目に当たる。
初めて《翡翠の渦》が確認されてから八年、およそ一年に一件から二件のペースで発生していることになるが、音もなく出現するそれは確認されていないものも多いのではないかというのがおおよその世間の見解だった。
つまり《翡翠の渦》はそこそこの頻度で発生してしまっている。そしてそれに規則性は見出されておらず、惑星メカニカでも発生した場所は各地に散らばっている。
まさかこの人はその全てに足を運んだというのか?
キラはインターネット上の有志がまとめた翡翠の渦の発生場所一覧を見て眉をひそめた。
優先して人が巻き込まれてしまった事案の聞き込みから始めた。
そう綴られた先は思わずため息をついてしまうものだった。
サルニ・ガロンは人が巻き込まれた場所を一件目が順に回り始めた。その場所その場所で自分の説明をすれば話を聞かせてくれたそうだ。すでに彼と同じく被害者となった人にも話を聞いたらしいが、同じ立場の人間として今まで話そうとしてこなかった人たちも口を開いてくれたという。
サルニ・ガロンは次に初めて《翡翠の渦》が確認された場所へ行った。それから結局全ての場所を巡ったそうだ。
そしてそれらの話をもとに全ての情報を一枚の大きな紙にまとめたそうだが、一週間それを見続けても何かの共通点を見つけられることはなかった。
ある程度予想できていたが、何も分からなかった。
短く、そう綴られていた。
また彼は並行して近隣惑星の警察やそれに当たる機関の座標を調べあげ、「息子とその恋人が行方知れずになってしまったのでもしそちらの星に行っていたら返事を返してほしい」ことを送り続けた。その範囲はすでにキラたちが最後の補給のために立ち寄った第七三七系の星々すらも超えているらしかった。
キラはもう、言葉も、ため息すらも出なかった。