第188話 眉唾ものの論文
ニジノタビビトにおやすみを言って自室に引っ込んだキラがまずしたのは通信機で検索エンジンを開きタシアに教えてもらってメモさせてもらった「翡翠の渦における現状と一考察」というタイトルと少し悩んでスペースを空けた後に「論文」という言葉も追加して検索した。
幸いにもその論文はすぐにダウンロードできる形式でインターネット上にアップされており、これ幸いとキラは自分の通信機のフォルダにダウンロードした。
明日はコンビニに行ってこれをコピー機で印刷しよう。キラは紙媒体で読む方が頭に入ってくるタイプだったし、タブレットなどを持っていない自分にはペンを持って自由に書き込みができることも紙の好きなところだった。
印刷をした後は参考文献になっている書籍を本屋か図書館で読もう。図書館でまさかキラ・ラズハルトが貸し出し手続きをするわけにはいかないからどうしても必要な場合は本屋で買うしかないだろう。その場合在庫があればいいが。
「今参考文献だけ確認しておくか……」
キラはダウンロードしたファイルを開いて目次を確認し、勢いをつけて親指を下から上に動かしスクロールをして論文の終わりの方のページに飛んだ。
「いや、参考文献少な……」
しかしキラは白いページに書かれた参考文献の少なさに思わず声を漏らした。その数たったの五つ。書籍が四つに論文らしきものが一つだ。
学生のレポートじゃあるまいにというのがキラの正直な感想だったが、まあ事象が事象なだけに仕方がない気もする。《翡翠の渦》が最初に確認されたのは八年前、当然この名前もついていない時だった。
おそらく研究をしたくてもあまりに超常現象すぎる上に発生場所、原因の全てが分かっていないのでたった八年ほどではあの現象のまともな論文が出ていないのも頷ける。
「しっかし、これじゃあ眉唾ものって言われてたのもそりゃそうだなって感じだな……」
キラは通信機を持ったのとは反対の手でガシガシと軽く後頭部をかいてベッドにボフン寝転びながら画面をスクロールした。
ただ文句を言っていても仕方ないのでひとまずファイルと検索アプリを行ったり来たりして、検索アプリのタブを増やしながらとりあえず五つの参考文献全てを検索エンジンに打ち込んだ。
キラはそれからもう一つ新しいタブを開いて「翡翠の渦 論文」で他のものも検索してみることにした。
「いやあ、これは……」
眉唾ものかもしれないとはいえ最新の論文らしきものに参考文献がたったの五つしかない時点でなんとなく察していたが、大型検索エンジンの検索結果はタシアに教えてもらった論文、参考文献に載っていた論文の他に一つしか出てこず、後は出典が不明なまとめサイトのようなブログのみ。諦めずに論文を検索できるサイトでキーワード検索してみるがやはりほとんどヒットしない。
キラは嘆息しながらニジノタビビトに大口を叩いた割になんの手がかりも得られそうにない現状に肩を落とした。