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第183話 今日一日のこと


 ニジノタビビトは湯船に下唇ギリギリまで浸かっていた。襟足のところもぎりぎりお湯に浸かってしまっている。

 今日、というかもう一年くらいはお酒を口にしていないはずなのに、まるで呑んで軽く酔っぱらっているように頭がポワポワとして今ならふわふわと宙に浮くことだってできそうだ。


「……なんだっけ、キラが言っていたやつ」


 あれはそう、確かカプラの家から帰る日の夜。あんなに浮き足立っているキラを見るのは初めてだったと思ったが、それを指摘したら「まるでなんのような気分だ」と言っていたんだったか。多分こんな感じの気分ときに使うものだったはずだ。


「お風呂からでたら、キラに聞いてみよう」


 ニジノタビビトはお湯から両腕を引き上げて上半身を捻ると肘から上を湯船のへりに乗せて、うつ伏せになるようにその上に頭を乗せた。

 こんなにのんびりしたのはいつぶりだろうか。いや、宇宙を次の目的の星に向けて移動しているときなんかはあまりすることもないのでのんびりとしているといえばしているのだが、そんな時でも基本的に規則正しく決めた時間に起きて朝食をとって、夜はシャワーを浴びて歯を磨いて寝ているのだ。昼寝をすることもあるがそれだって今日みたいにそう長い時間寝たりはしない。

 今日は朝寝坊して、とびっきりのブランチを食べてそのあとたっぷり可愛くお昼寝なんて言葉では足りないくらい寝て、起きたらキラに励ましてもらって、楽しくておいしいおやつを食べた。その時に余ったチョコレートを流して飾るのも楽しかった。

 それから晩御飯もたっぷりおいしかった。カメルカはもちろん、アーモンドを散らしたというマリネ風のサラダもおいしかった。マカロニはカメルカと相性が抜群だし、ガーリックトーストもおいしかった。

 それになんと言ったってデザートが豪華だった。キラが作ってくれるお菓子やデザートはさまざまあってそのどれもがおいしかったが、今回はその中でも三本の指に入るのではないだろうか。

 そこまで思い出してニジノタビビトははたと今日自分はいちご入りチョコレートムースをおかわりすることをためらったが、今日がのんびり贅沢な休日になったという意識があるあたりもしかしなくても自分は取り繕う以前にもうすでにだいぶ食い意地が張っているのではないだろうかと思い至った。

 実際、キラは自分がチョコレートムースの二切れ目を食べたがっていることに気づいた様子だった。

 ニジノタビビトはお風呂に入っているからではない理由で顔から首のところまで赤くして思わずザバッと波を立てて立ち上がった。それによって少量のお湯がへりを越えて排水溝に吸い込まれていきカラカラと音を立てる。


「……もう、でよ」


 ニジノタビビトは最後に湯船のお湯よりも少しだけ温度を下げたシャワーで火照った顔を覚ますように、ついでに全身にも浴びせてからお風呂場のドアを開けてバスタオルを手に取った時に急に閃いた。


「そうだ確か、ソラリククラゲの、胞子? って言ってた」


 ただもうすでにニジノタビビトはソラリククラゲの胞子のようではなくなっていた。



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