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第181話 ニジノタビビトの感想


 ニジノタビビトはキラリと先の光る銀のフォークを左手に持って斜め四十五度の角度を維持したままスッとそれをチョコレートムースに入れた。ムースは生クリームやメレンゲを泡立てて作るふんわりとした食感のスイーツなので柔らかくフォークが沈んでいく。

 ムースの作り方は様々あってベリーなどフルーツを使用する場合にはゼラチンが材料に含まれることがほとんどだが、チョコレートの場合はもうそれだけで固まってくれるので生クリームを加えるという二つの材料でも作ることが可能だ。他にはミルクや卵やバター、水なんかを使うレシピもある。

 ただ今回キラはシンプルにチョコレートと生クリームの二種類のみを使用したレシピにした。全体量の半分より少ないくらいの生クリームと必要量ピッタリだけ購入していたクーベルチュールチョコレートを耐熱ボウルに入れて電子レンジへ。溶けたら中心から小刻みに混ぜてガナッシュを作っておく。あとは残りの生クリームをホイップしてツノが経ったらガナッシュと混ぜ合わせて紙とクッキーといちごを敷いた型に流し込む。


「……どう?」


 キラはまだフォークも持たずにニジノタビビトの様子を伺っていた。味自体はカットの時に出るあまりのはじっこを口にしていたのでちゃんと美味しくできたことを知っていたが、それはあくまで自分の味覚の話だったのでニジノタビビトからの評価を聞くまでは油断はできない。

 ニジノタビビトはキラが気にしているのに気づいたが口の中のムースをゆっくり丁寧に溶かしてから口を開いた。


「…………おいしい……」

「そっか! よかった……」


 ニジノタビビトは普段、できるだけキラが作ってくれた料理やお菓子の感想を具体的に告げることを心がけている。

 これは忖度なしに思っていることだが、ニジノタビビトは今まで食べたキラの料理やお菓子で不味いと思ったことがただの一度もない。それどころかいつもおいしいのだ。

 それはキラがニジノタビビトが苦手だと言っていたようなものを避けて作っているからでもあったが、それでもと言っていいだろう。ただ一つ、おいしいと感じる明確な理由として、キラが自分のことを思って作ってくれているからというのが一つの理由となっているのであろうことはニジノタビビトも分かっていた。

 さらにニジノタビビトはキラが初めて出してくれたものは特に丁寧に感想を伝えるようにしている。ここが好きだとか食感がどうだとか、香りがどうだとか。しかし今回初めて食べたいちご入りのチョコレートムースに限ってはため息と共に漏れたおいしいという言葉のみであった。

 ただキラがそれで本当はイマイチだったのかと心配することはなかった。なぜならニジノタビビトの顔は血色がよくなって目をパチパチと瞬かせて視線が真っ直ぐ目の前のチョコレートムースに向いているのだ。

 そこでキラは気づかないうちに肩に入っていた力を抜いて自分の手元のフォークをやっと手に取って自分のムースに突き立てた。



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