第179話 チョコレートの飾り
ニジノタビビトはおやつに続き、夕食の片付けも自分がすると言って譲らなかった。
これは日頃よくある論争で、惑星メカニカまで送り届けてくれるにも関わらず食費も何も払えていないのにこれくらいは全部やらせてくれと主張をするキラと、毎食毎食美味しいご飯を作ってくれてさまざまなおやつまでつけてくれているのだから自分もやらせてほしいというニジノタビビトの主張だった。
初めの頃はもう少し他人行儀だったこともあってニジノタビビトは一人何もしていないことに多少居心地の悪さを感じつつも全てキラに任せてソファーで膝を抱えていたのだが、ここ最近、つまりキラとニジノタビビトの距離が縮まってからはそうもいかなくなっていた。
しかも今日に至っては黒ビールなどの食材を買った覚えがないことからこれらの材料費はキラから出ていることを察していた。だからこそ食事の片付けは自分がやるのだというのがニジノタビビトの主張であった。
ただキラにしてみればここ二日の食費が自分の財布から出ていたとはいえ、たったそれだけで今までの食費、滞在費、生活費を全て合算すれば到底足りないのだからという主張があるが、今日は何となく譲ってくれない気がしたので致し方なく、致し方なく! 今日の片付けはニジノタビビトにお願いすることにした。
それも今日はマカロニとガーリックトーストの間の時間があってその時に多少片付けを進めていたこと、皿はいつもより多く使ったがフライパンを使っておらず、まだカメルカが冷めていないので鍋を洗うタイミングではないことがあったためだったが。
それには気づいていなかったニジノタビビトは食洗機に洗い物を入れてから気がついてほんの少しムッとしたような表情になった。
しかしそこにすかさずキラが声をかける。
「そうだ、今日のデザート、レインにちょっと手伝ってもらおうかな」
キラはまるで今思いついたようにそう言うと、お菓子の戸棚から板チョコを出して三分の一ほど割って小さい丸鉢に細かくして入れると電子レンジにかけた。
それからクッキングシートを縦長の長方形に切り出して対角線に切り三角形を作る。それをくるくると巻いてペーパーコルネを作りコップの中に入れて立てかけた。その中に溶かしたチョコレートを流し入れて上を三度細かく折る。
キラはそれと残った三角形のクッキングシートをニジノタビビトに差し出した。
「このコルネの先を小さく切ってチョコレートを細くクッキングシートに絞り出して飾りを作ってほしいんだ」
「か、飾り……?」
「そう、なんか絵を描いたり、ぐしゃぐしゃってやってみたり……あー、こんな感じ」
キラはメモ用紙にペンで縦長の楕円を何十にも重ねて描いたもの、それを応用して下の部分を重ねて角度をずらして描いた楕円で崩したハート型にしたもの、もっと細かく唐草模様を描いた丸などを描いてみせた。
「こういうのをチョコレートで描いてほしいんだ。冷えたらそれを今日のデザートのてっぺんに刺して飾りにする」
「あ、そういうこと。分かった、やってみる」
今までのニジノタビビトであればもっと戸惑ったかもしれないが、今日のマンディアンの経験が生きているのかすんなりと受け入れてくれた。キラはやりやすいようにバットの裏にクッキングシートを貼り付けてニジノタビビトに渡した。
ニジノタビビトはそれを受け取ってキッチンでもう少しデザートの準備をするというキラの邪魔にならないように先ほど食事をしていたテーブルにカタンとバットを置いた。