第178話 遠い星の伝統料理
「じゃあ俺はカメルカをよそうからこれを持ってってもらってもいい?」
「分かった」
ニジノタビビトはキラからガーリックトーストの乗った皿を受け取ってそれをカトラリーの待つテーブルまで運んだ。
キラは淵に黄色い五枚の花びらを持つ花、薄緑と紺色の二色の葉っぱが描かれた広め大きめの丸鉢のお皿を二つ食器棚から出してそれにカメルカを二人分均等になるようによそった。その時にキラは皿の中に入る肉の塊の数を数えてニジノタビビトの器の方にひとつ多くなるようにして、ガーリックトーストを置いて戻ってきたニジノタビビトにこっちがレインの分だと言明してカメルカの器をひとつ渡した。
それからキラは少し冷めたマカロニをピッタリ入る大きさの小鉢二つにちょうど半分ずつになるように移してこれも二度お往復してカメルカを運び終わったニジノタビビトに運ぶように頼んだ。
最後にキラは冷蔵庫からサラダを出してこちらも小さい丸鉢二つに取り分けると仕上げにローストして程よく砕いたアーモンドスライスをふりかけた。これで本日の夕食の用意は完了だ。
「レイン、飲み物何飲む? 水と、レモン水、あとお茶は淹れればあって……炭酸水もあったかな」
「えっと、とりあえず水でいいかな」
「分かった。じゃあ水持ってくから最後これも持っててもらっていいか?」
キラはニジノタビビトにサラダをよそった皿を二つを手渡して食器棚から下の方に水色と緑の色の入ったグラスを二つ取り出してそこに浄水を注いだ。
食卓に行くとニジノタビビトはもう姿勢良く座っていたのでニジノタビビトの前にグラスをひとつ置いてキラも席につき、両手をパチンと合わせた。
「それじゃあいただきます」
「いただきます」
キラはまず一口水を、それからフォークでチーズとトマトときゅうりとローストアーモンドのサラダに手をつけた。ニジノタビビトも同じようにサラダに手を伸ばす。
「キラ、これ……アーモンド?」
「そう、のせてみた。苦手じゃない?」
「うん、カリカリしてて香ばしくて美味しいね」
相変わらずニジノタビビトはキラの作ったものをニコニコと食べてくれる。キラはそれを慈しむような表情で見て今度は右手にスプーンを持ってカメルカを口にした。
もうカメルカを現地で食べたのは三ヶ月ほど前になってしまって舌に残った記憶も薄れてしまった部分があるが、あれから何度か作ったカメルカの中でも最も近い味にできたのではないだろうか。
「キラ、これ、クルニで食べたのと一番似てる気がする」
「あ、レインもそう思った?」
どうやらニジノタビビトもそう思ってくれたらしい。まさか第六二四系の惑星クルニという遠く離れた星の料理を第七五六系の、キラの地元で作られる黒ビールで近しい味を出せるようになるとは。
不思議な巡り合わせもあったものだと思いながら少しずつ作るのにも慣れた遠い星の伝統料理にキラとニジノタビビトは舌鼓を打った。