第177話 ちょっと失敗
「今から焼くとちょっと早い?」
キラはトースターのつまみに手をかけて時計を見ながらニジノタビビトに問いかけた。ニジノタビビトも時計を仰ぎ見て現在時刻を確認して少し考えながらもキラの方を見て言う。
「うん。……もう少しかな」
「だよな」
キラはトースターのつまみにかけていた手を下ろしてオレンジ色の明かりがついている電子レンジを見て、マカロニはちょっと早すぎたなと口を尖らせた。
ピーッピーッ。
「お、」
しかしすぐに電子レンジから音が鳴り、このまま置いておいても柔らかくなりすぎてしまうだけなのでひとまずキラはバタンと扉を開けた。
「アチッ」
キラはタッパーの対角線の角を掴もうとして誤って蒸気に触れて声をあげ、ピッピッと指先を振りながら鍋つかみを探した。しかし数歩歩いたところに鍋つかみを見つけて眉間に皺を寄せると、着ているシャツの肩を少し抜いて両袖を引っ張るとそれで支えるようにしてタッパーを掴んだ。
それからバケットがのっていた皿を肘を使って避けて作業台のスペースを開けると一度タッパーを置いてから置いておいた蓋をずらして被せてもう一度袖越しに持ち直しそれをシンクに向かって傾けた。
「アチアチ」
たち上る蒸気にキラは多少声をあげながらお湯を切った。ニジノタビビトがそれを眉尻を下げて見ていたが、すぐにお湯がなくなり、キラはタッパーをまた作業台に置いてくっつかないようにマカロニにオリーブオイルをほんの少しかけて今度は蓋をしっかり閉めてから上下に振った。
「はい、これでマカロニはできましたー!」
キラは自分の時間管理のちょっとした失敗を誤魔化すように少し大仰に声を上げた。
続いてニジノタビビトが何かを言う前に弱火にしている鍋の蓋を開けて底から丁寧に具が崩れないようにかき混ぜた。
それからおたまの上にじゃがいもを乗せて竹串を刺して硬さを確かめ、スープを少しすくって小皿に持って味を見るとひとつ頷いて火を止めた。
「うん、これでカメルカも完成」
さっきの言い方は少し恥ずかしかったなと思いなおして今度は普通に言った。
それからニジノタビビトがまだまどろみの中にいるときに仕込んでおいたサラダに、ドレッシングを作って和えてからもう一度冷蔵庫に戻してカトラリーを食卓に用意している間にもうそろそろ良いかという時間となった。
キラはトースターのつまみを捻り、中を見て焼き加減を確かめながらカメルカを温め始めた。軽く鍋底をなぞっている間に段々と香ばしく鼻を刺激する匂いがし始める。
チン!
すぐにトースターが鳴り、キラが扉を開けると漏れ出ていたガーリックの香りが一気に広がる。
「レイン、焼き加減の好みある?」
キラはトースターの前から退いて場所を開けると背後にいるニジノタビビトに問いかけた。
ニジノタビビトはキラの横に来てトースターの中を覗き込むと首を振った。
「ううん、これぐらいがいいと思う」
「おっけ」
キラはさっき肘で押し退けた皿を左手に持ってまたアチアチと言いながら八枚のガーリックトーストを皿にあけた。