第176話 ガーリックトースト
「じゃあまずレインにはバケットスライスしてもらおうかな」
「うん、分かった」
キラはバケットとフルーツやパンなど専用のまな板、一番切れ味のいい包丁を出した。キラはニジノタビビトが包丁を使うところをほとんど見たことがなかったので手を切ったりしてしまわないか少し心配に思ったが、それは流石に子供に見過ぎかと口にすることはしなかった。
「厚さはどれくらい?」
「ぶっちゃけ好みなんだけど……一センチ前後、かなあ。だいたいで、レインの好みの厚さで大丈夫だよ」
「分かった」
キラはマカロニを棚から出してタッパーに重さを量りながら横目でニジノタビビトの手元を凝視した。しかしニジノタビビトはキラが思っていたよりも包丁の扱いに慣れているようで、右手はバケットの切り口から離れたところを握っているし、包丁を握る左手の動きはときどき引っかかるような感じがあるものの厚さもほぼ均一に切れている。
キラは胸を撫で下ろしながら流石に心配しすぎかと少し反省して、水とほんの少しの塩を入れたタッパーを蓋をしないまま電子レンジに入れて茹で時間より少し長めに時間を設定した。
「キラ、バケットって何枚くらい?」
「レイン、何枚食べたい?」
「ううん……三、いや四枚!」
「じゃあ俺のも足して八枚お願い」
キラはそう言うと冷蔵庫から瓶入りのみじん切りのニンニクとバターを取り出した。それから熱伝導がいいらしいバターナイフも出してバターが塗りやすいように握り込んで温めるようにした。
「キラ、切れたよ」
「そしたらお皿に全部並べてくれるか?」
ニジノタビビトは食器棚から大きめの皿を出して一枚一枚重ならないようにそれを並べた。キラはニジノタビビトにぬるくなったバターナイフとバターケースを手渡した。
「それじゃあバターを塗って、その上にこのニンニクを薄く塗る……置く? 塗ります!」
ニジノタビビトはこくんとうなづくとバターナイフをバターに突き立てた。しかし利き手が左手であるニジノタビビトでは右利き用のバターナイフではうまくバターを削り取ることができなかった。
「あ、そっか、レイン左利きだもんな。じゃあ俺がバター塗るからその上にスプーンで適当な量ニンニク塗ってくれるか? あ、スプーンは二つ使っていいからバターがついちゃったのを瓶に入れないように頼むな」
「ん、分かった」
キラは手に持った瓶をニジノタビビトのバターナイフと交換して、右手に握りしめると冷蔵庫から出したばかりで固いバターを削った。
しかしバケットは食パンなどと違ってある程度の硬さがあるので多少力を入れてもいいので気楽なものだった。
キラがバターを塗り終えて皿に置かれたものから順にニジノタビビトがニンニクを程よく薄づきで塗っていく。
「で、あとはこれをトースターで焼くだけ、と」
バターを塗り終えたキラはニジノタビビトがニンニクを塗り終えたものから順にトースターに並べていった。