第172話 アーモンドスライスの天使の羽
「で、できた……」
「うんうん、いい感じじゃん」
キラはニジノタビビトが集中してスプーンを握りしめている間もずっと浮かべていた笑みをより深くした。
残ったチョコレートでニジノタビビトが作った丸は全部で八つになった。ゆっくり、丁寧に綺麗にまあるくなるように多少時間をかけていたので最初にクッキングシートの上に落とされた丸は表面がだいぶ固まってきているようだが、アーモンドスライスなら突き刺せばまだトッピングとして間に合うだろう。
キラは自分が両手に持っているバナナのチョコレートがクッキングシートの上に落とされたチョコレートよりも薄づきのおかげで早く固まったことを確認してクッキングシートの空いているところに置き、手の中を空にした。
「それじゃあなんかトッピングするか」
キラはチョコレートを取り出したのと同じ戸棚から二枚入りのビスケットを取り出して、手のひらに置くと袋越しのビスケットの中心に握り拳を作った小指の第二関節でガンと軽い衝撃を入れた。それから冷凍庫からスライスアーモンドの入ったフリーザバックを取り出した。
「これ、ナッツとかドライフルーツとかあとは味の違うチョコレートとかトッピングして色々おしゃれにもできるんだけど、思いつきでやったしこっちはおまけだから今回はこの二つにするかな……。レインなんか乗せたいのある?」
「ううん……特に思いつかないかな」
「ん、おっけ。はいじゃあ乗せてみよう!」
キラは手に持った大小二つの袋をニジノタビビトに差し出した。
ニジノタビビトはもう躊躇うことなくキラの手から程よく砕けたビスケットとアーモンドスライスを受け取った。
キラは邪魔にならないあたりの台に両肘をついてニジノタビビトの手元を覗き込んだ。
「チョコレート、固まっちゃって乗せられなかったらそこの部分だけクッキングシート切ってちょっと電子レンジにかければ多分いけるよ」
「うんでも、いける、いける、ささる」
ニジノタビビトは最初にクッキングシートに丸く落としたチョコレートに少々強引にビスケットを押し込んで、中から溢れた固まっていないチョコレートのところにアーモンドスライスを二枚乗せた。
それからニジノタビビトはアーモンドスライスをデフォルメされた天使の羽みたいになるように三枚重ねて置いてみたり、ビスケットとアーモンドスライスを交互に高く立体的になるように乗せて置いてみたりしていた。
絶妙なバランスを図ってたった二種類のトッピングで創造性豊かに飾るものだとキラは思った。そしてやはり四ヶ月もの間寝食を共にしたとはいえ、たった四ヶ月ぽっちではなかなかその人のことを知ることができないものだと思い知った。
あと少し、もう両手で足りる数になってしまったかもしれないその日々に、少しでも、一日でも一時間でも一分でも、一秒でも多く思い出を紡ぎたいとキラはそうチョコレートの上の天使の羽に願った。