第171話 マンディアン
キラは電子レンジから出したチョコレートをスプーンでよく混ぜて少なくなったチョコレートにバナナを半分潜らせてうまくつかない部分はスプーンでチョコレートをかけた。
「あ、やべ……」
キラは二本のバナナを半分に切ってフォークに刺したので全部で四本ある。ニジノタビビトの両手に一本ずつ、キラの左手に一本あるので、もう一本バナナをチョコレートに潜らせなくてはいけないのだが、利き手の右手にはスプーンを持っているので最後の一本が持てない状況にある。
それを見たニジノタビビトはハッとして右手に持ったフォークをなんとかうまいこと左手に移した。ニジノタビビトの手の中にあるバナナのチョコレートはほとんど固まってきたのでいけると思ったのだ。
「キラ、もてる、いける、大丈夫」
「え、ほんと? じゃあちょっとだけ頑張ってすぐやるから!」
キラは自分が持っているフォークをそっとニジノタビビトの左手に移すとバナナの皮の上で待機している残り一本を手に取った。
キラは手早く、しかし全体的にチョコレートがつくようにした。
「オッケー。レイン最初のやつはもう乾いた感じ?」
「うん、もう平気だと思う」
ニジノタビビトは右手首をぐるっと回してチョコレートの色を見た。
キラはよしと言ってチョコレートを切るのに使っていたクッキングシートをシンクの上で軽く払ってから台の上に広げてニジノタビビトの右手からチョコレートが固まったバナナを受け取ってそっと置いた。
二回目にチョコレートをつけたバナナも受け取ってぐるっと見てまあ一部分くらいチョコレートが剥げても自分の分にすればいいかと思ってそれもクッキングシートの上に置いた。
「よし、じゃあレイン、そっちも貸して。それでそこのスプーンで残ったチョコレートをクッキングシートの上に一口大くらいに出してなんか、ナッツとかビスケットとか好きに乗せていい感じにしてよ」
「えっ、い、いい感じ?」
キラはバナナを両手に持ってニコニコした。ニジノタビビトはキラの顔とボウルに少し残ったチョコレートを見比べて、おずおずとスプーンに手を伸ばした。
ニジノタビビトは大さじスプーンの半分より少し多いくらいのチョコレートをすくってクッキングシートの上に丸くなるように落とした。
「え、キラこれくらい? こんなもの?」
「うんうん。いい感じ」
ニジノタビビトは急に投げられたそれに少し混乱しているようだったが、キラはそんなニジノタビビトを見てニコニコしたままだった。キラは四本目のバナナにチョコレートをコーティングしている最中に、せっかくだからレインにもやって貰えばよかったなと思ったのだ。それで余ったチョコレートは元々適当にクッキングシートの上に流して食べる予定だったのでそれをニジノタビビトにやってもらうことにしたのだった。
ニジノタビビトはまだ恐々と次のチョコレートをすくっていて、別にキラとしてはトンチンカンなトッピングでもしない限り不味くはならないのだからと思ったが、何も言わずに笑みを湛えたままたかがチョコレートに真剣な様子のニジノタビビトを眺めていた。