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第169話 ワンツーパンチ


「キラは、その、このあとはどうするの……?」

「うん?」

「その、《翡翠の渦》に巻き込まれてからの話が終わったって言ってたけど、もう警察署に行くことはないの?」

「ああー、それなんだけど……」


 キラは本当のことを言うか悩んだ。それも昨日ニジノタビビトが体調を崩してしまったのは明らかに警察の人と会えるかどうかを話してからだったためだ。しかしいつまでも黙っているわけにはいかないので、できるかぎりニジノタビビトの負担にならない言葉を頭を必死に回して探した。


「えっと、レインが体調を崩していることを話したんだ。そうしたら、今は体調を戻すことを優先すべきだって言ってくれて。で、もともと俺が警察でやることっていうのは少なくてあとは一応、俺をこの星まで送り届けてくれた人とお話し、しておきます? ぐらいの感じだから……」

「じゃあ、私待ちってことか……」


 俯いてしまったニジノタビビトにキラは焦って両手を振って言葉を付け足す。


「あっ、いや、レイン待ちっていうか。そもそもレインが警察の人と絶対に会わなくちゃいけないなんてことなくて、だからなんていうか……」

「でも、なんにしても私がどれだけ早く虹をつくれる人を探せるかにかかっている……」


 間違ってはいない。間違ってはいないのだが……。

 現在止まっているキラが惑星メカニカで生活を取り戻すために行われなくてはいけない次の工程はニジノタビビトがいつこの星を旅立つのか、つまり虹をいつつくれるのかが決められなくてはいけない。ちなみに予想されているその次の工程はマスコミや自称研究者、研究機関他に面白おかしく騒ぎ立てられることだ。

 しかし、今のキラにとって最優先事項はあくまでニジノタビビトであって自分のこの後の生活ではない。だから間違ってはいなくても、キラは本当にニジノタビビトにそんなに気負ってほしくないのだ。

 しかしこれ以上遠回しに、誤魔化すように話してしまっては余計にニジノタビビトが気負ってしまう気がしたので、キラは一度肩の力を抜いて言葉を選びながらも素直に話すように努めて口を開いた。


「うん、確かにこのあとはニジノタビビトによって決まってくることだし、こんなこと言ってもあんまりそう聞こえないかもしれないんだけどさ、俺、レインに焦って欲しいとかは一切ないんだ。むしろ、ゆっくりでもいいくらい。警察の人なんか思いっきり待たせちゃえばいいんだよ」


 キラはそう言って握りしめた拳を軽くジャブを打つように空間を叩いた。

 ニジノタビビトはそんなキラをポカンと見つめて、完全に負い目がなくなったわけではないもののキラのジャブの先に誰がいるのかを想像して面白くなって手のひらを縦に差し出すようにした。

 キラはまさかニジノタビビトがパンチを受けるようにしてくるとは思わなかったので、一瞬ためらったものの、ニカッとした笑みを浮かべてニジノタビビトの手のひらに軽く当てるだけのワンツーパンチを入れてみたりした。



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