第16話 ごはんを作りましょ
「スープパスタだと、コンソメとかトマトとかクリームとかありますけど何がいいですか?」
キッチンでフライパンをIHクッキングヒーターの上に置きながらキラは尋ねた。今日は食材を調達したばかりだから好きにつくることができる。二人分を一週間作らないといけないので食材を使う量は気をつけなければいけないが、キラは食費に気を使いながら自炊をしてきたため、そういったことは得意であった。
「悩むな……。うん、じゃあ今日はコンソメのがいいな。それで他のはまた今度食べたい」
「分かりました。じゃあ今日はコンソメベースのスープパスタにしましょう。野菜と、きのこと、お肉か魚介を入れましょうか。何がいいですかね」
キラは腕まくりをして、冷蔵庫を開けてぐるっと見てからすぐに閉めて何を入れるか考えた。電気代を少しでも無駄にしない癖がついているのだ。
ニジノタビビトは顎に手を添えて少し考え込んでから、お肉が食べたいな、と言ったので今日はコンソメのスープパスタにお肉と野菜ときのこを入れることにした。キラはまた少し考えて、冷蔵庫からフウという鳥の肉と、キャベツを取り出した。きのこは食べたことがなく、味が分からなかったものがあったので、ニジノタビビトがススリというキラの知るところのシメジに似た味のきのこを選んだ。
そういえばこれらの食材はニジノタビビトが選んで買ったのだから、これらのバランスを見るにそこまで心配する必要はなかったかもなとキラは少し安心していた。
キラはまず桶に水を張って、キャベツとススリを洗うようにニジノタビビトにお願いすると、自分は取り出したフウの肉を切ろうと思ってふと手を止めた。
「肉魚用のまな板とかありますか?」
「そのオレンジのやつがそうだよ」
キラはオレンジ色のプラスチック製のまな板を取り出してからまた少し思案して、洗い物を減らすために今日は包丁は使わないで作るかと考え直して、先程包丁を取りだしたところからハサミを取り出して一口大に切りながら、そのままフライパンの上に直接落としていった。
フウの肉を少しの油で色が変わるまで炒めてから、ススリと塩コショウを加えてまた少し炒め、ちぎったキャベツと水とを加えて沸騰させた。
「ねえキラ、トマトとか、クリームだと何を入れていたんだい?」
「そうですねえ」
顆粒のコンソメと半分に折ったパスタも入れてフライパンに全ての食材が入り、あとはパスタがアルデンテになるのを待つのみ、となったとき、ニジノタビビトが尋ねてきた。キラはトングでフライパンの中を軽く混ぜながらのんびりと答えた。
「トマトならやっぱりベーコンとか、茄子科か瓜科の野菜類を入れると美味しいですよね。クリームなら、定番は鮭とかほうれん草とか豆類……。あ、トマトクリームにするのもいいですね」
ニジノタビビトは日常生活に関する記憶と虹をつくることに関する記憶は忘れていなかったが、自分に関することは忘れていることも多く、何が好きで何が嫌いだとか分からなかった。だからこそ、娯楽の少ない宇宙船で生きるのに必要な食にまず興味を示し、楽しさを見出した。
しかし、一人で作って一人で食べることがどうしてか寂しく、宇宙船での食事は簡単に済ませてしまうことが多かったのだった。
ただ今回は、ニジノタビビト自身だけでなく、キラも宇宙船に同乗するからこそ適当なものは食べさせられないという思いからバランスを考えて食材を買い込んでいた。
つまるところ、ニジノタビビトの食生活が不安定であるというキラの予想は当たっていたということである。
「そうか、もちろん私もやるけれど、人が、キラがご飯を作ってくれるというのは嬉しいし、楽しみだね」
その言葉は、キラにとっても嬉しいものであった。