第159話 守りたい
「…………きら、ごめん。も、へいき」
「平気なことないだろ! ごめんな、無理なこと言って。とりあえず明日は宇宙の長旅で体調を崩しているからまだ分からないって報告するから、な?」
キラはニジノタビビトの手を強く握りしめた。ニジノタビビトが少し落ち着くまでずっと手を握っていたからかだいぶ手の体温は戻ってきたものの、ニジノタビビトの顔色は依然として青いままだった。キラはこの話がニジノタビビトに多少の衝撃を与えることは予想できていたが、まさかここまでとは思わなかった。失敗した、もっとタイミングを伺わなくてはいかなかった。
ニジノタビビトは今日カケラの熱を感じたにもかかわらず、それを逃してしまったこと、元々早くこの惑星メカニカから旅立たなければと焦っている節に話された内容に多きく動揺してしまった。キラはこう言ってくれているが、ずっと哀れなメカニカ人を送り届けた優しい人がダンマリを続けているというのも不審なので後回しにしているわけにはいかない。
「ごめん、ごめんキラ。頑張って虹をつくれる人探すから……」
「いいんだ、いいんだレイン。それに焦らなくていいよ。焦ったってどうしようないことだろ? もうすぐ俺も手伝えるようになると思うから……」
キラに理性がなく、欲望のままに行動する人間だったのならば、決してニジノタビビトの手伝いなどしなかっただろう。それは感情の具現化の手伝いをしたことがバレて世の中に糾弾されることが怖いのではなく、ニジノタビビトとの別れを先延ばしにしたいからだった。
しかしキラにはそこそこ効きのいい理性があるのでニジノタビビトにとってどうすればより良い結果につながるのか、どうすればニジノタビビトを無事に続けられるかを友として優先に考えることはやめなかった。
ひとまず今ニジノタビビトが警察の人間と会うのは不可能だと判断して、体調不良を理由に誤魔化すことに決めた。嘘がなんだ。ニジノタビビトを、レインを守るためならばそれくらいどうってことはない。
「レイン、レイン。大丈夫だ。レインは俺のことをこの星に送り届けてくれたいい人という認識が強いから少しくらいわがままを言ったって誰にも怒られやしないし、そんなことをするやつと俺が会わせたりなんかするもんか」
キラはニジノタビビトを守りたかった。だが、ニジノタビビトだってキラのことを守りたかった。
「……うん、うん。ごめんね、キラ」
キラがニジノタビビトのことを守ろうとするたびに、ニジノタビビトは自分のことが不甲斐なくて仕方なくなっていた。自分がキラを危ない目にあわせないようにさっさと虹をつくって出て行こうとすればするほどがんじがらめになってうまくいかず、焦れば焦るだけこの星の旅立ちが遠のいて行っている気がしてならなかった。ニジノタビビトは自分の無力さが不甲斐なくて仕方がなかった。