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第158話 青い顔、冷たい手


 キラは食事をとりながらニジノタビビトに今日はとうとう警察の人に公的にキラ・ラズハルトであることを確認してもらえたのだという話をした。キラがやっと《翡翠の渦》に巻き込まれながらも勇ましくこの星に戻ってきた本人だと確認されたのだ。この報せがニジノタビビトにとって嬉しくないわけがなかった。本当に、嬉しいのだ。その気持ちに嘘はこれっぽっちもない。

 それでもニジノタビビトは今日の鮭のムニエルの味を途中から覚えていなかった。せっかくパリパリに焼いてくれた鮭の皮まで味わったのに、美味しかった気がするという感想で終わってしまった。キラの話は食事が半分ほど進んでからだったので、そこまでのカボチャサラダと鮭のムニエル、付け合わせのソテーの味を覚えていられたのはまだ幸いだった。

 今日のデザートはニジノタビビトのアイスストックから提供されたわけだが、いつもニジノタビビトは甘いものを目一杯楽しむのに今日ばかりはアイスに集中しきれていなかった。しかしながらもアイスが溶けてしまう前に食べ切ったニジノタビビトにキラは少しばかり重々しい声音でまた話し始めた。


「その、レイン、相談があるんだけど……」


 怖かった、今度はさっきよりも重苦しい口調で何を言われることか。


「……うん。なあに?」

「今日、キラ・ラズハルトの帰還について、どこまで秘密裏に進められるかっていう話があったんだ。それで俺がレインの、俺をこの惑星メカニカまで連れてきてくれた人の事情に合わせたいって話をしたんだけど、そうしたら警察の人にその人はいつまで惑星メカニカに滞在予定なのかっていう話をされてしまって、さらに、レインに、会えないかって……」


 キラはもちろん虹をつくれなければ燃料不足のためにニジノタビビトが宇宙に旅立っていけないことを分かっているので、それまで自分できる限り引き伸ばしを手伝うつもりだという話をしたが、ニジノタビビトは一瞬何も考えられなくなってしまった。

 このままではニジノタビビトとキラの共倒れになりかねなかった。ニジノタビビトが惑星メカニカの警察に会いたいと言われる理由はいくつかある。まずはキラ・ラズハルトを雑用と料理をはじめとした家事の仕事のみで四ヶ月もかけて惑星メカニカまで送り届けてくれたことに関する感謝。そして、なぜそんなことをしてくれたのかや、この星での滞在予定を聞くことなどだ。基本的にニジノタビビトは友好的に思われているはずだが、万が一にも虹をつくっていることが、感情の具現化が露呈することになってしまえば途端に弾劾される側になってしまう。

 この場合キラまで弾劾される可能性もあることから、なんとしてもニジノタビビトがニジノタビビトであることだけは秘匿しなければいけなかった。だからニジノタビビトはキラと別行動をしていたのに、この星の警察と会ったらどうなってしまうのだろうか。


「……レイン、やっぱり会わなくていいように調整しよう」


 ニジノタビビトの青くなった顔色を見てキラはニジノタビビトの冷たくなった両手の指先を温めるように握りしめながらそう言った。キラの手の体温が伝わってきているはずなのにずっと冷たい手のままニジノタビビトはまだ発する言葉を失ったままだった。



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