第157話 鮭のムニエル
「レイン、まだ帰ってないかな」
キラは少しだけ浮き足だっていた。ルーランドらにキラを惑星メカニカまで送り届けてくれた人と会いたいと言われてしまったことに多少の不安はあったものの、今日晴れて自分は公的にキラ・ラズハルトであると認められたのだ。
これからキラは惑星メカニカで生きていくのに大変なことはあるだろうが、今までは生活以前に身分証明にすら不安があったのだからだいぶ前進したことになる。
「早く、帰ろう」
キラは今日の話をニジノタビビトにしたくてたまらなかった。でもそれは心に触れる冷たい氷のようなものを無視しているだけに過ぎなかった。キラは、自分がこの星で生きていく環境を整えていく度にニジノタビビトが遠のいていっていることを分かっていた。
トトト、と早々に慣れてきたパスワードを液晶に打ち込む。
ウィーン――。
宇宙船の入り口のロックを解錠したキラは降りてきたタラップに足をかけた。
「ただいま」
癖のように独り言のただいまを言いながら宇宙船の中に入ると中は電気がついていた。キラは一瞬昼出てくる時に電気を消し忘れてしまったのかと思って焦ったが、記憶辿ってみれば確かに消したはずで、出る前に水と電気は全て確認してから出たのでそんなことはないはずだ。だとすれば……。
「レイン! レイン帰ってきてるのか?」
キラは宇宙船の入り口がぴっちり閉じたのだけを確認するとバタバタとテンション高く奥をのぞいた。キッチンに続いて洗面所をのぞいたキラに後ろから声がかかった。
「キラ、おかえり」
「っ、レインただいま!」
キラはなんだか数日ぶりにニジノタビビトに会ったようなテンションになったが、すぐに自分の興奮がちょっと大袈裟かもしれないと思って、ひとまず冷静になるために冷たい水で手を洗った。うがいまで済ませて落ち着いたキラはそのままキッチンに進んでエプロンをかけた。
「レイン、ムニエルとホイル焼きどっちがいいか決まった?」
「うん、ムニエルがいいな」
「オッケー」
キラは冷蔵庫から鮭を取り出してまずバットにあけた。鮭に塩をふって少し置いておく間に副菜の準備をする。カボチャサラダをつくることは決めていたので、カボチャのワタとタネをとって小さく切ったカボチャを水に潜らせてから耐熱皿に乗せてラップをして電子レンジに入れた。玉ねぎをスライスして水にさらしておき、電子レンジがピーピー鳴ったら取り出してカボチャを潰してチーズとハムと水気を切った玉ねぎをあえて小皿に盛った。
ムニエルの付け合わせは悩んだがほうれん草とコーンのソテーとすることにした。じゃがいものガレットを付けるか悩んでサラダと芋でかぶるなと思ったのでそれはまた今度にすることにして、冷えたフライパンに水分を拭いて小麦粉をはたいた鮭を入れた。皮がこんがりなるようにバターを時々足しながら丁寧に焼いていく。焼き上がったら余分な油をキッチンペーパーで軽く吸ってから皿に盛り、さっとほうれん草と缶詰のコーンを炒めてこちらも皿に盛り完成。
「よし、できた! さ、レイン食べよう」