第156話 感謝の言葉
「ごめんなさいね。ルーランド警視正はとてもお忙しい方だから……」
「あ、いえ。こちらこそお手数おかけしてしまって……」
なんだか階級も風貌も凄そうな人というのがルーランドの第一印象だったので、それは仕方のないことだろうと思った。むしろ、自分に時間をこれほどまで割いて貰ったのが申し訳なく謝ろうとしたキラだったが、そこで先ほどタシアに言われた言葉を思い出した。
「えっと、お忙しいのに、ありがとうございます」
「……ええ」
アメルデはキラが謝ろうとしたのがなんとなく分かったから少しの間の後にありがとうと言われたのに驚いて目を見張ったが、すぐに笑みを浮かべてその感謝を受け取った。
「それじゃあ、今日はこれで解散にしましょう。明日も今日と同じ時間に警察署の前に来てもらえるかしら」
「はい、分かりました」
「何か聞いておきたいことはある?」
「聞いて、おきたいこと……」
といってもキラが明日までにしておかなくてはいけないことはニジノタビビトが警察の人と会うかどうかの話し合いと、ニジノタビビトの旅の目的などがバレないようにするための作戦会議で、それについては聞けることは当然ない。ならば聞いておきたいこととは少し違うが。
「聞いておきたいことではないんですが、さっきタシアさんに一つお願いをしたんです」
「タシアに?」
「ああ、先ほどラズハルト君から銀行に預け入れしているお金はおろせるのかという相談がありまして」
「そうだったの、確かにおろせないと大変よね……。お金を引き出そうとはしてみたの?」
「いいえ、なんか万が一にでも通報とかされちゃったら嫌だなと思って……」
「なるほど、分かったわ。確認しておきましょう」
「よろしくお願いします」
それからまた少し考えたが、聞きたいことというのは特に思いつかなかったのでこれにて解散となった。キラは身体測定のときに一度出した貴重品がきちんとパンツのポケットにおさまっていることを確認してから立ち上がった。出口まで送ってくれるというアメルデとタシアに共に警察署内の廊下を進む。キラは少し早いかなと思ったが、もたつくのも嫌なので歩きながら早めに一時入館許可証を首から外した。
ゲートに一時入館許可証を認識させて通過すると、キラはタシアに一時入館許可証を返した。そのまま二人と一緒に出口までくるともう恒星がほとんど沈んでいて空は橙と赤と紫の混ざった色をしていた。一般の人も利用する出入口だが、ちょうどそれらしい人はいなかった。
「まあ、何か聞きたいことがあったらお昼の時のようにメッセージを送ってくれればいいわ」
「分かりました」
アメルデは外の冷たくなってきた風に伸びをしてから、キラにそう言った。キラは二人に頭を下げると宇宙船に帰るために歩き出した。駐車場を抜けて振り返ると二人はまだ出口に立っていて、アメルデは大きめに、タシアは小さめに手を振ってくれていたので、キラは手を振りかえそうか悩んでもう一度頭を下げると歩道に出て左に曲がった。