第155話 秘密と話し合い
「それでは、今後どのように惑星メカニカでの生活を取り戻していくかですが……」
「あ、あの、まだ大ごとにしたくないんです。俺をこの星に連れてきてくれた人に迷惑だけは絶対かけたくなくて……」
「しかし、こう言ってはあれですがラズハルト君はすでに《翡翠の渦》の第五の被害者として報道されてしまっています。私どもも可能な限り騒ぎならないように丁寧に進めますが、君が全く衆目に晒されないようにするというのは正直言って不可能かと……」
「分かっています! それはもう仕方のないこととして考えてはいるんです。でもせめて……またあの人が宇宙に旅立つのを見送るまでは待ってほしいんです」
キラは自分をさまざまなメディアに引き摺り出して「奇跡の人間」だとか言われて面白おかしく騒ぎ立ててくる人たちがいるであろうことは予想できていたし、それが避けられないであろうことも分かっていたが、せめてそれはニジノタビビトとさよならをしてからがよかった。きっとその方がニジノタビビトの秘密がバレる可能性はずっと低くなるから。
キラはニジノタビビトとさよならをしたくなかったが、ニジノタビビトが、レインがニジノタビビトであることを止めたいとは決して思わなかった。
「その方は現在何を?」
「えっと、自分がこんな状態なので心配してくれているのと、自分が生まれ育ったこの星に興味があるらしくてこの星に留まっています。」
キラはできるだけ余計な情報を言わないように、必要最低限の中で話をした。キラはこの目の前の人のあたたかさを感じてはいたし、嬉しい言葉に涙が溢れそうにもなったが、この人がニジノタビビトを害す可能性が全くないとは言えないことを理解していた。それにこれは気のせいかもしれないが先ほどからその言動にどこか引っかかるものがあった。
「そう、ですか……」
ルーランドは顎に手を当てて綺麗に揃えられた髭をなぞった。目を伏せて一人思考の海に沈む。しかしそれもすぐに浮上させてキラの目を見た。
「あなたの生活基盤もですが、その方の予定も重要になってきますね。私共がその方にお会いすることは可能ですか?」
「えっと、どうでしょう……。その、今日その人と一緒に食事を取る予定なのでその時に会ってもらえるか、この星の滞在予定はどれくらいか聞いてみます」
「そうだね、そうしてほしい。私たちとしても同胞の帰還を優しさから手伝ってくれた人に無体なことはしたくないから可能な限りサポートさせていただこう」
そこでタシアの声がかかった。
「ルーランド警視正、そろそろお時間が」
「ム、もうそんな時間かね。――ラズハルト君、それでは本日はここで切り上げて明日その方の回答を持ってきていただけるか?」
「あ、わ、分かりました」
「それでは。……アメルデ、後は頼むぞ」
「はっ!」
ルーランドは言いたいことを言い終えるとさっさと席を立って出ていってしまった。キラは立ち上がって彼に礼をする間も無く、バタンと音を立てて閉まったドアの向こうに消えたルーランドの背中を見送るしかできなかった。