第153話 聴取と検査
「ほう、《翡翠の渦》に巻き込まれた先の惑星で、たまたま着陸してきた宇宙船を発見し、その宇宙船に乗っていた人の持っていた翻訳機のおかげで話が通じ、その人がとても優しい人かつ自分探しをするような感じで宛てもなく旅をしていたことで調理などの雑用を引き受ける代わりに宇宙船の同乗を許された、と?」
そう言葉にして並び立てられるとこうもフィクションのようなのだなとどこか他人事のようにキラは思った。
「はい、その、できすぎた話なのは自分でも分かっています。でも、本当なんです」
「いえ、まあ確かに驚きはしますが、あなたが今我らが惑星メカニカにいて、私たちの目の前にいるというのは事実ですから」
キラはルーランドの言葉には「あなたがキラ・ラズハルトであるならば」という言葉が続いているように聞こえてならなかった。まただ、とキラは思った。いや、頭では理解しているのだ。自分が《翡翠の渦》なんてものに巻き込まれながらも、たった四ヶ月ほどで故郷惑星メカニカに帰ってこれたという話が出来過ぎであるというのは十分理解している。だからこそキラは、証明のためならばむしろなんでもやってやるぞという気持ちでもあった。
ただ、ルーランドは何もキラがキラ・ラズハルトであることを疑っているというわけではないのだ。まだそう判断できるだけの材料が揃っていきっていないというだけの話である。
「それでは、これから質問と、検査によってキラ・ラズハルトであることの証明をしていきましょうか」
「……はい!」
そしてまず始まったのはキラ・ラズハルトの経歴の聴取だった。生年月日に始まり、出身の学校や担任だったの先生の名前、いつ元々の住居であったアパートに入居したのか。通信機やガス、電気の契約をどの会社と行ったのか、それはいつ頃か。という公的書類に残るキラ・ラズハルトしか知り得ないものを山ほど聞かれた。もちろん正確な日付など一部記憶が曖昧なところもあったが、今までのことを事細かく全て覚えていたというのはむしろ不自然なことなので、それが「キラ・ラズハルトではないこと」の証明には当然なり得なかった。
それからキラ・ラズハルトは警察病院にも連れて行かれ、血液検査や歯の治療痕のチェック、そのほか身体測定も行われ、キラは頭のてっぺんからつま先まで調べられることとなった。
血液検査はキラ・ラズハルトの血液型を調べるため、歯の治療痕の確認はキラ・ラズハルトであると確認させるための非常に大きな要素として、身体測定はユニバーシティで年度はじめに行われた健康診断、身体測定との数値の比較のために行われた。
血液検査の結果や測定値の比較の結果が出るまでの間、キラは最初に通された部屋で血を抜かれるために針を刺された左腕を少し気にしながらミルクティーをちびちびと飲みながら待機していた。そんな時に頭をよぎるのはやはりニジノタビビトのことで、今どうしているだろうか。ニジノタビビトはリマインダーの通知を見てくれただろうか。鮭のムニエルとホイル焼きであればどちらが食べたいというだろうか。ああ、ホイル焼きといえばせっかく地上に停泊しているのだから火も使えることだし焼きマシュマロでもできないだろうか。なんてことをつらつらと考えていた。