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第15話 お腹が空きましたね


「あ、」


 ニジノタビビトの旅の目的の話が終わって二人してすっかり黙り込んでしまったが、沈黙を破ったのはニジノタビビトの声だった。


「タビビトさん、どうかしました?」

「いや、そろそろお腹が空いてきたなと思ってね」


 ニジノタビビトは左手で軽くお腹をさすりながらはにかんで言った。それにキラは食卓に置かれたそれぞれ別の色に彩られた十のメモリがある時計を見て、気がつかないうちにだいぶ時間が経ってしまっていたことに気がついた。


 時計は、一つの星で朝と夜の場所が同時に存在するのに、星ごとに一周公転するまでの時間が異なっていて一日の長さも違っており、ひどく混乱することになってしまうため、“今が何時か”ではなく、“今どれほどの時間が経過したか”を判断するための道具として存在している。

 時計には一周に十のメモリが書かれ、メモリがそれぞれ別の色に塗られるか異なる形が描かれており、針が何色から何色まで進んだかでどれほどの時間経ったかを判断している。針が、あるメモリから次のメモリまでどの位置にいるかということのみ統一され、販売されている時計ごとにメモリの色や形も異なれば上下も特にないので、その時計が今何色を指しているかを毎回覚える必要があった。

 最初は癖が付けられないとどれほどの時間が経過したか分からなくなるものだが、大抵一人一つ持っている小型通信機や、リストデバイスにアラーム機能がついているので、結局のところ慣れてしまえば特に問題はなかった。



 キラは ニジノタビビトが自分の言葉遣いが砕けて親しくなっていっているのを嬉しがっていることに気がついていた。ニジノタビビトは目的のために関わる人はせいぜい食料調達時に市場の人と関わるくらいであったため、人と親しくなることも旅をすることもなく、友人というものもいたことがなかった。キラは、その持ち前の性格と豊かな人脈で、隣人への優しさと隣人からの優しさで生きてきたこともあり友人が多かったが、優しいこの人と親しくなれることが嬉しかったし、優しさを返したいとも思っていた。

 そこで、さっき市場での食事が甘いものに偏っていて、紅茶に角砂糖を五つも入れたこの人の食生活が心配になり、一緒に料理をすることを目的に探りを入れてより健康でいて貰えるようにできないだろうかとこっそり考えていた。


「ねえ、タビビトさん、僕……俺に夕飯を作らせて貰えませんか? 宇宙船に乗せてもらっているんだし家事くらいやらせてください。」


 キラは先ほどまであったしんみりしてしまった空気に、今度は意識して俺という一人称を使った。キラの言葉にニジノタビビトはパッと顔をあげた。ニジノタビビトが、甘いものが好きであるということにはキラも気づいてはいたが、実はさまざまな星を旅する中で食事自体が楽しみになっていた。それも記憶喪失により他に趣味が見出せなかったことによるあったりする。

 また、一回に食べる量はあまり多くなかったが、すぐにお腹が空いてしまうタイプの低燃費であった。


「いいのかい? 私は一人旅だったし、食べられればいいかなと思って、適当に食事をすることも少なくなかったから誰かの料理を食べられるのは嬉しいな」


 やはりか。キラはさっき準惑星アイルニムの市場で買ってきた食材を冷蔵庫に入れたときに買った食材やキッチンの使い込まれ方を見て、なんとなく食や買って食べるものに頓着はあっても自分で料理をして食べることに頓着がないことを察していた。


「よかった。でも調理器具がどこにあるか分かんないんで、一緒におしゃべりしながらやりませんか。料理しながらだともっとお互いのことも知れると思うんです」


 キラは優しさを返したいと心の底から思いながらも強かであったので、食生活について探りを入れるためにニジノタビビトが自分とより親しくなりたがっていることを利用した。


「それじゃあ、続きは後にしてご飯にしましょうか。何か食べたいものとかありますか、俺が作りますよ」

「何もリクエストがないと困るよね、そうだなあ、何か麺類が食べたいな」


 キラは冷蔵庫にしまった食材を思い出しながら、何を作ろうか考えていた。食生活について探る時間は欲しいが、ニジノタビビトもキラもお腹が空いていたからあまり時間をかけすぎてもよくない。

 結局、食生活については食事をしながらでも探れることから手早く作れるものすることにした。


「じゃあ、とりあえず洗い物が増えないようにスープパスタを作ろうかなと思います」


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