第145話 タシアの出迎え
多少キョロキョロと辺りを見回したりしたものの、警察署がある位置というのはキラの持つ通信機だけでなく道路標識も教えてくれたので、これといって迷うこともなく無事に待ち合わせの時刻より余裕を持ってキラは警察署前にたどり着くことができた。
警察署の前で立ち止まっているという事実がキラを多少緊張させているものの、道路に面している入り口からまず駐車場があってその奥に建物だあるのでまだマシだったかもしれない。ここから入り口が遠くてあまりよく見えないということは、あちらからもこちらが見えにくいということなのだ。
これで職員や警察官にどうしたんですかと聞かれでもしたらたまったものじゃない。
「いや、でもあと少し……」
キラは改めて通信機で時計を確認した。時計の針は待ち合わせ予定のメモリにもう重なろうかというところだ。
今の自分は不審者に見えてやしないだろうかと思いながらキラはソワソワとその時を待つしかなかった。
「ラズハルトさん」
控えめな声がかかった。キラ・ラズハルトは《翡翠の渦》に巻き込まれた哀れな人間というのが社会の認識の一つとして存在しているので、騒ぎ立てられないように気を遣ってくれたのだろう。結局、この先騒ぎ立てられることになるのには違いないだろうが、それはせめてニジノタビビトがもう遠く彼方の星まで行ってしまってからがよかった。
「タシアさ……タシア、巡査部長?」
「ああ、フフ、タシアで構いませんよ。確かに呼び方が難しいですかね」
「あ、じゃあ……タシアさん、その、改めてよろしくお願いします」
「はい、よろしくお願いします。それではこちらへ」
キラはタシアの先導で駐車場になっているところを突っ切って警察署の入り口へ向かう。タシアはそのまま歩きながらこの後のことについて簡単に説明し始めた。
「この後は主に事情聴取、要するにどうやってこの星に帰って来れたのかをもう一度話していただくことになります。ただこれに向けてある程度準備はしたのですが、まだ追いついていないところがあり、お待たせしてしまうこともあるかと思います。また、アメルデ警部に聞かれたのと同じことをこれから何度も聞かれたり、改めて歯形などであなたがキラ・ラズハルト本人であるかの検証が行われるかと思いますがご了承ください」
「あ、はい、分かりました。大丈夫です」
キラはこれは今日一日では終わらないだろうなと思いながらタシアに続いて表の、市民も使う出入り口から警察署の中へと足を踏み入れた。キラは大っぴらにではないもののキョロキョロとしながらそのまま奥まで進むとタシアが一度立ち止まって振り返った。
「こちらを首からかけてください」
「これは……?」
「一般の方が利用する一時入館許可証です。これをそちらのゲートにかざすと中に入れます」
キラは言われた通り、中に何やらロゴのようなマークのようなものが印刷されたカードの入った名札入れの赤い紐を首からかけた。よく見ればタシアのスーツの胸ポケットにも異なるデザインのカードが引っ掛けてある。
「それではこちらへ」
タシアが胸元のカードを一度取り出して駅の改札口にICカードをかざすように入ったのに習ってキラも首から下げたカードを上体をかがめながらタッチしてピッと鳴らすとタシアの後に続いた。