第141話 いざスーパーへ
急な階段を転ばないようにキラは一段ずつゆっくりと下りてそのまま路地裏から表通りに出るまでタシアと一緒に歩いた。アメルデに電話をするから先に行ってくれと言われたのだ。
元来た道を戻って表通りに出ると、タシアが役所がある方を指さした。
「ラズハルトさん、この五本奥に役所がありましたね」
キラが頷く。するとタシアは今度は正反対を指さす。
「警察署はその反対にさらに二本、つまり役所のある通りから数えて七本先の通りに出て右に曲がり、北の方向に少し歩いたところにあります」
タシアはキラの方を見て来れそうですかと続けた。キラは役所から七本、右に曲がって北方向……と呟いて頭に叩き込むとひとつ頷いた。
「はい、大丈夫です。通信機のマップもありますし……」
「そうですか、それでは時間にお待ちしております」
キラは通信機の時計の画面を出して、針がメモリとメモリの間にあるのを見た。
「ええと、今からふたメモリ半ですよね」
タシアも左手首に着けた腕時計を確認する。
「はい、その頃に来ていただければ入り口でお待ちしております」
「本当ですか、ありがとうございます!」
これでキラは一人で警察署に入って受付でアメルデとタシアに会いに来たことを伝えることにはならなそうである。緊張するポイントの一つがなくなったことでキラは少し肩の力を抜くことが出来た。
この後集合する時間も場所も確認できたので、キラはアメルデとタシアに手を振って昼食をとる前にひとまずスーパーに向かうことにした。
一昨日、この惑星メカニカに帰って来れた日はカプラのところで夕食をご馳走になったし、もともと昨日は宇宙船で夕食をとる予定ではなかった。つまり、冷蔵庫と冷凍庫にそろそろ食材を補給しなくてはまずいのだ。昨日は何とか足りたものの、今朝朝食をとった時点でもう夕食に使えそうな食材という食材がほとんど無くなってしまっていた。
キラが現在持っている現金はあの《翡翠の渦》に巻き込まれてしまった日に持っていたものしかないが、その日は日用品だけでなく、服やらなんやらも買おうかと思っていたのでそこそこ持ち合わせがある。これも他の星ではただの紙と金属片でしかなかったが、今こそ使う時がきた。
ちなみに、キラはいつぞやに自宅周辺に空き巣が出るという話を聞いてから現金の一切を自宅に残さず、こまめに、手数料がかからないように引き出すようにしていた。
キラはラゴウとケイトと話したこともあってこれまでの旅がニジノタビビトにとってただのお荷物ではなかったと思えるようになったが、それでも自分がずっと金銭的にニジノタビビトを頼らざるを得ない状況にあることを気にしていた。いや、気にするなという方が無理な話かもしれない。
だからキラは今こそ自分のお金を使うべきタイミングだと思って疑わなかった。現在預金から引き出せる状況かどうかが分からないのでそんな何日分も購入出来ないが、自分が作った料理を笑顔で食べてくれるニジノタビビトに美味しいものを食べさせてやりたい。
キラは元々このあたりを中心に生活していたので、近場で品揃えがいい所ももちろん知っている。これから行くところはアパートからもユニバーシティからも少し離れているせいで通っていたという訳ではないが、何度も行ったことはある。
赤信号に捕まるたびに通信機のアプリでそのスーパーのチラシをチェックしながらキラは道を急いだ。