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第136話 キラのカルテ


 キラが遠目に見た人影はやはりアメルデだった。そしてその隣に昨日もいたアメルデの部下だという男性、確かタシア巡査部長と呼ばれていた人もいることに気がつくとさらにスピードを上げて走った。


「すみ、すみません! お待たせしました」

「やあ、少年。大丈夫、定刻通りよ。早速だけど今日は君の歯型がキラ・ラズハルトのカルテと一致するか確かめるわ」


 アメルデは手に持った薄いピンク色の封筒を掲げながら言った。どうやらその封筒の中ににキラのカルテのコピーが入っているらしい。


「そう、なんですね……」


 初めて歯形の意味を説明されてまるで他人事のような心持ちでつぶやいた。そもそも歯型で同一人物かどうか判断できることを初めて知ったキラだったが、そこでふとあれ? と思った。昨日のことをゆっくりと思い出して、確かにアメルデは歯形の話をしていたが。


「あれ? でも俺、どこの歯医者に通ってたとか言ってないのにどうして……」

「ん? ああ、それは簡単な事よ。君の家、通っていたユニバーシティの場所、駅、アルバイト先の立地から推理すればそこまで難しいことではないわ」


 アメルデはなんでもない事のようにそう言った。キラは目を剥いて、はえ、だかほえ、だか随分と間抜けな声を出した。

 アメルデはそんなぽかんとした顔になったキラを見て思わず吹き出し、手に持った封筒で顔をおおった。


「フ、フフフ……!」


 そんなアメルデを見てずっと黙っていたアメルデの後ろに控えた部下、タシアが言う。


「……はあ、アメルデ警部? ラズハルトさん、違いますからね。保険証からデータ閲覧しただけですから。この方は推理なんてこれっぽっちもしていません」


 ため息をついたタシアは呆れたような、疲れたような顔をして肩を落とし、その拍子にピッタリと着られていたスーツの襟が歪んだ。

 つまり、キラは揶揄われたわけだ。なんだこの人、というのがキラの感想だった。昨日はなんとなく威圧的な印象が強かったから、こんな変なことを言ってくるとは思わなかった。目を大きく開いてポカンと口を開けた顔から一転、半眼になって口をへの字にしながらキラはアメルデのことをねめつける。

 その視線に気がついたアメルデがパタパタと右手を振る。


「いや、ごめんなさい。昨日も緊張していたようだったから、肩の力が抜けるかと思って」


 タシアがまた一つため息をついて、いまだに笑うアメルデからは見えない位置なのをいいことにお手上げだとでもいうように両手を上げて軽く首を振っている。キラは彼の様子を見て、ああ別に今日に限ったことではないのだろうな、と思った。


「フフ、……はあ。いや、申し訳ない。それじゃあ、歯形の一致を見てもらう歯科医は警察の息がかかった人でさせてもらうわ。こっちよ」


 アメルデはさっさと切り替えて回れ右をするともう歩き始めた。そもそもがとてもせっかちな人なんだろうなと思いつつ、キラは慌てて引き止める。


「あ、あの! 昨日のホーロンさんたちは……」

「ああ、歯形の一致が認められたらまた色々書類の作成とかをお願いするけど、それまで彼らはできることがないから……普通にそこで仕事してると思うわ」


 キラはアメルデが指し示した先のビル、役所を見てなるほどと納得すると、すでに十歩分ほどの距離の開いたアメルデについていくために足を踏み出した。



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