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第130話 綺羅星からきた名


 キラはもう紫色になってきた空の下、明日歯型で自分かどうか確かめるとは何をするのかを少しだけ不安に思いながらも、思っていたよりも早く終わったことでその足取りは軽く、ニジノタビビトが待っているはずの宇宙船までの道のりを急いだ。

 また明日も役所に行かなくてはいけないが、自分は現段階でほぼキラ・ラズハルトであると確定しているようだし、間違いなく自分はキラ・ラズハルトであるのだから自信を持ていばいい。キラはなんだか面白くなった。自分は生まれてこの方ずっとキラ・ラズハルトだったのに、「キラ・ラズハルトと確定しているよう」だとか「自信を持てばいい」だとかそんなことを思うだなんて。まさか自分が自分であることの証明がこれほどに面倒で難しいことだとは知らなかった。

 このキラ・ラズハルトという名前をキラは気に入っていた。この名は、父が考えてくれた候補から、生まれた時に母が選んでつけてくれたらしい。母子手帳にそうやって書いてあった。その父も母ももういないが、この名は綺羅星に向かって標を見失うことのないようにとの願いを込めてつけてくれたのだそうだ。

 両親の死んだ理由が交通事故であるということ以外、詳しいことはキラも知らない。何せ親の顔だって数枚の写真が残っているのみで記憶な中には存在していない。親戚もおらず、両親が事故で亡くなってからはそのまま孤児院に入った。しかしそれもまだこの世に生まれ落ちて一年になるかならないかという頃で、記憶として存在しているのは孤児院に入ってからのことだった。

 キラはいわゆる苦学生というやつだった。突然のことだったけれど、貯金と保険をしっかりしていてくれたものだから遺産はそこそこあったし、国の補助や奨学金もいろいろあったおかげでかかるお金が少ない国立に入ったとはいえ無事にユニバーシティまで通えているのだ。

 キラはそこそこに貧乏であった。しかし別に日々の生活に追い詰められているか、というとそういうことはなかった。それは両親が無謀な人ではなかったこと、遺産を当時言葉も分からないキラのために残そうとして管理してくれる人たちがいたこと。そうした隣人たちの優しさによって生きてきた。だからキラは隣人への優しさを忘れたことはなかったし、それによって豊かな人脈というものがあった。


「レイン、待ってるかな」


 キラはニジノタビビトに帰りはきっと遅くなるだろうから夕食は何か買って先に食べていてくれと言い残してきた。しかしこれなら、ニジノタビビトのタイミングによっては一緒にご飯を食べられるかもしれない。

 キラが惑星メカニカに住んでいて《翡翠の渦》に巻き込まれてしまった青年だと認められ、この星で再スタートする準備が整えば。ニジノタビビトが虹をつくれる人を見つけ、無事空にその橋をかけられたらもう別れとなるのだ。それもきっとおそらく生涯の……。そのもう数えられるほどしかない日のうちの、できる限りを共に食事ができればいいとキラは思っていた。



 キラはその急く気持ちを抑えられず、ついには走り出した。魚を焼いているような匂いや、ニンニクとセイユで何かを炒めているような匂いを真っ二つに割るように走り抜ける。

 宇宙船が見えてくると、息せき切って走ってきたのを知られるのが小っ恥ずかしくて、足を緩めて呼吸を整えながら歩いた。宇宙船の前に着くと鼻を啜って、早速今日登録してもらったこの顔とパスワードで宇宙船の入り口のロックを解除していく。


 ウィーン――。


 キラは待ちきれずに、地面に残ったタラップ跡の五センチ手前で立って今か今かと体を揺らした。


 ガタン。

 タラップが地面に降り切るか降り切らないかでキラはその右足を踏み出した。


「レイン! ただいま!」




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