第128話 嘘の滲む本当
「その人、宇宙船に乗っていたレインという人はとても優しい人でした。違う星に飛ばされたせいで言葉も全く通じない中、出会ったのが宇宙を旅しているおかげで高性能な翻訳機を持っている人なのも幸運でした」
キラは物語を話すようにして筋書き通りの、完全なノンフィクションではないものを語ったが、それでもニジノタビビトとの出会いを思い出して、空を見つめた。
「はじめ、レインさんの口から出てきた言葉が全く知らない音だったときは一度元に戻った血の気がまたザッと引きました。その後なんとか話を聞いてもらって、ひたすらに頼み込んで、雑用をさせてもらうことで宇宙船の同乗許可を得ました」
キラがニジノタビビトのことをレインさんなんて呼んだのは初めての事だった。自分が着けた愛称がこんなにも他人行儀に聞こえるのが、場違いとは分かっていても少し面白かった。
カルーセルはもうすっかり話に聞き入っていた。キラが《翡翠の渦》に巻き込まれてからいかにしてこの星に戻ってこられたのかという話は、あくまで業務の一環で聞いているはずなのに、そんなことはすっかり頭から抜け落ちていた。目の前の少年の体験談は下手なホラーよりも恐ろしいものでありながら、あまりにも劇的なものでいっそ出来過ぎだと思うくらいだった。ホーロンはその年の功でカルーセルのようなあからさまな感情の変化を表情は出さなかったが、まるで現実にあることを題材にした小説でも読み聞かせられているような気分だった。
アメルデだけは一応義務感で変に圧をかけないように数ミリだけ口角を上げたほぼ真顔の表情のままキラの話から矛盾点がないかどうか探るように、いつもの容疑者からの聴取のときのように話を聞いていた。
「幸い、厨房に立つアルバイトをしていたことと、料理とお菓子作りが好きだったこともあって、その辺りで役に立つことができました。しかし、自分には大した金もなく、生活に必要なものも何も持っていませんでした」
こうして他人に今までの事を話していく中で、キラは改めてニジノタビビトに迷惑をかけてきてしまったと落ち込んできた。それにしても、よくもまあこんな穀潰しのようなものを乗せてくれたものだ。
「その後、レインさんは燃料や水や、酸素や食料を補給する以外どこにも立ち寄らずに惑星メカニカにまっすぐ向かってくれて、四ヶ月かけてここに帰って来れたんです」
「そうだったの……。貴方をここまで連れてきてくださった、レインさん。自分探し、とのことだけれどどこか目的地があったという訳ではないの?」
「自分が知る限りありません。宛てもなく旅をしているようでした。それでもこの星には寄ってみたい、みたいのはあったん、だと思います。すみません、あまり詳しく聞いていないんです」
「いいえ、何となく、想像でしかないけれど、宇宙にいる間は密室だし聞にくいというのは理解できるわ。それじゃあ――」
コンコンコン。
アメルデの言葉を遮るようにこの第三会議室のドアを叩く音が響いた。