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第127話 自分探しの旅


「ええと、俺はあの日、講義もバイトも休みで買い物に出ようと思って外出しました。それで駅前の、ショッピングセンターに行こうとして、その途中、突然、気がついたら緑色のような白色のようなものの中にいました」


 カルーセルは思わず顔を顰めた。キラの話し方が、まるで怪談師のように飄々としているので背筋に冷たいものが走った気がしたのだ。いや、もしかしたら怪談よりもよっぽど恐ろしいかもしれない。

 カルーセルは、まさか自分が《翡翠の渦》に巻き込まれるなんてことありはしないだろうと思ってきたが、実際にそう思っていたであろう青年が目の前にいるのだ。もしも自分が巻き込まれたとしたらどうしていただろうかと考えずにはいられなかった。《翡翠の渦》の保険なんて馬鹿馬鹿しいと思っていたが、これは一度契約内容をよく読んでみてもいいかもしれないとカルーセルは思った。

 カルーセルが顔を顰めたことなんて一切気にせずに、キラはだんだんまるで自分の身に起こったことではないかのように話をしていった。


「不思議なことに目が覚めるんです。薄い緑と白と、それからところどころに紫が混じったものが自分の体にまとわりついたとハッキリ認識して、それなのに、別の星に移ったとき、目が覚めるんです。だから自分がどのようにして違う星に飛ばされたのかも、時間がどれほど経過したのかも、途中に別空間があったのかも分からない、どうして意識が飛んでいたのかも分からない」


 キラが朗々と物語を話すようにして話したのには一応理由があった。これから登場する人物がまるで空想上の人物のように形取られればいいなという目論みがあったのだ。キラを惑星メカニカまで無事に帰還させたニジノタビビトはどうしても注目が集まる。ニジノタビビトという役割というか目的を教えないためにも、もちろん、ニジノタビビトという呼称は使わずに、キラがつけたレインという愛称を使うつもりだが、そんな中でもキラが考えた対策の一つなのだ。


「意識を取り戻して呆然としました。それで、あれが《翡翠の渦》か、初めて見たなあとどこか他人事のように思うんです。それと同時にひとまず、水も草もありそうな場所であることに安堵しました」


 その後、大きな音が轟き、何かが落下してきたこと。それを見に行って白くて丸くてそれでいて四角張った宇宙船のようなものを見つけたこと。あれが宇宙船ならもしかして乗せてはもらえないだろうかと砂粒ほどの可能性しかないものに期待に胸を膨らませたこと。今までにないくらい全力で走ったことまでは本当のことを話した。

 問題はここからだ。ここから嘘と、話さないと決めたことがある。キラは今までと同じような抑揚になるように細心の注意を払って続きを話し始めた。


「そこで出会ったのが今回、自分をこの星まで送り届けてくれた人でした。本当に運がよかった。《翡翠の渦》なんて最悪なものに巻き込まれたけれど、巻き込まれたその先には幸運しか転がっていなかった。砂粒ほどだったはずの可能性が、実を結んだんです」


 宇宙船から降りてきたのは、少し不思議な目の色をした人で、その人は宇宙を旅してまわっていると言った。


「その人はどうして宇宙を旅していたのかしら?」


 アメルデの言葉にきた、とキラは思った。出会った人、つまりニジノタビビトの旅の目的は虹をつくり、記憶を取り戻すことだが、馬鹿正直にこれを言う訳にはいかない。トップシークレットなわけだ。しかし、ここでどうしてか分からない、知らないなんて言うのも変な話なので、ここの理由はずっと考えてきたとっておきがある。


「あまり踏み入ってほしくはないようだったので一度聞いてから踏み込んでは聞いていないのですが、自分探し、だと言っていました」


 ニジノタビビトは記憶という自分探しをしている。ギリギリ嘘は言っていない。


「そう……。ごめんなさい、途中で口を挟んで。続きをお願いできるかしら」

「はい」


 アメルデは少し考えたような仕草を見せたが、そのままキラに話の続きを促した。



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