第126話 四人だけの会議室
「あなたがキラ・ラズハルトである証明をしなくてはいけないけれど、かといって彼が戻ってくるまで待っているのも時間の無駄ね。……その間にどうしてこの星に戻ってこれたのか聞かせていただこうかしら」
部下の男を見送ったアメルデはそう言って今度はキラの三歩後ろに立っているホーロンに目配せをした。ホーロンはその視線を受けて静かに近づくと一人分の距離を空けてキラの隣に立った。
「どうします?」
「そうね、私とホーロンさんと……」
「じゃあ、そこのカルーセルにしましょう。そいつが最初に担当したんです」
「あなたが言うのであればいいかしら。じゃあ、それで」
一体なんのことだかキラにはさっぱり分からなかった。話の途中でホーロンに突然指を指されたカルーセルにも意味が分からなかった。二人は目配せで話の内容を察するわ、主語もなしにあらかじめ話を擦り合わせたかのように話をするわ……。長年の相棒かのようであるが、この二人が仕事上で関わり始めたのは実に三年前のことである。
「あの……?」
もはやわざと明言を避けているのではないかいうくらいに二人だけで話を進めているので話しかけにくかったが、キラは自分自身に関わることであると確信していたので、なんとか勇気を持って話しかけた。
カルーセルはキラがそう二人に声をかけてくれたことに感謝した。自分も訳が分からなかったので聞きたかったが、話をしている片方がよくよく知った上司とはいえ、もう片方は顔と声と名前だけ知っている偉い立場にいるであろう警察官。しかも自分は三人から少し離れたところにいるので余計聞きにくかったのだ。
「ああ、ごめんなさい。あなたのことはもう少し準備を整えられるまではできる限り知らせる人間を選んだ方がいいと言う点でホーロンさんと私は意見が合致しているわ。それで詳しく話すときにこの場にいて良い人間を選ぼうと思ってね」
「私と、カルーセルも同席するが構わないだろうか」
カルーセルは自分の同意よりも先にキラの許諾を得にいくところに多少の疑問を感じないでもなかったが、まあ別に嫌ということは全くない。……どころか彼がいかにしてこの惑星メカニカに帰還するに至ったのか気になっていたのでそのまま黙って見守ることにした。
キラは視線を斜め上にずらして思案したが、誰にも話さないという訳にはいかないことは分かっていたし、これまでを見てこの人たちであればおそらく問題ないかと考えて頷いた。
「ありがとうございます。それではホーロンさんたちも座ってください」
もうすっかりアメルデが場を取り仕切って進めていた。アメルデも下手にこの警部という立場に上り詰めたわけではないので、こういう話を進めるのに多少強引でも自分の流れに持っていってしまった方が楽なことを知っているのだ。
ホーロンはそれに頷きだけを返してカルーセル以外の職員を外に出し、この部屋に緊急時以外近づかないように告げるとアメルデの隣に座った。カルーセルはホーロンさんたちに自分が含まれているのが分かってどこに座るか悩んだが、キラの隣に座るのも変かと思って逡巡した後にホーロンの隣におずおずと座った。
「それじゃあまず、四ヶ月前にあなたが《翡翠の渦》に巻き込まれたところから話してもらえるかしら」