第125話 キラの運転免許証
バタンと少し強めの音が背後で鳴ったのでキラは反射的に振り向いた。その先にはパンツスーツを身に纏ったショートカットの視線の鋭い女性が立っていた。彼女はホーロンより年下に見える。
「ハロー、少年。私はアメルデ。惑星メカニカ、セーラン地区所轄警察署の警察官です」
その女性、アメルデはカツンッと低めのヒールを心地よく鳴らして手帳をジャケットの内ポケットから取り出して言った。キラもスーツに合わせるような低くて固いヒールのついた革靴を一足持っているがそれで歩くときに鳴らしたくなるような音が鳴った。
キラは彼女の勢いにしばしボーッとしたが、すぐにハッとして椅子から立ち上がってペコリと頭を下げた。
「キラ・ラズハルトです。よろしくお願いします」
「ええ、それなんだけれど、まず私は君に事情を伺う前に君が本当にキラ・ラズハルトであるかどうかを確かめなくてはいけないの」
そう言うとアメルデは先ほどホーロンから受け取った運転免許証を見ながらキラの横を通り過ぎて、キラが座っていたところの机をを挟んで向かい側のパイプ椅子に腰掛けていくつか質問し始めた。
「さあ、君も座って。まずこの免許証を取得したのはいつ? ああ、それと目的も教えてちょうだい」
キラは警察官と一対一で話したのは初めてのことだったので、緊張で手に滲む汗をズボンで擦って、緊張をほぐせないかと手を揉みながらもなんとか詰まらないように答えた。こう言うのは変に詰まってしまうと怪しく見えてしまうのではないかと思ったのだ。
「ええと、取得した目的はバイクに乗れたら便利だろうなって言うのと、何より免許証は身分証明書としてすごく便利だなと思ったからです。いつ取ったかは……あれはユニバーシティに入学してすぐだから……、二年前の秋、十月の下旬の頃です」
アメルデはなるほどと言って一つ頷くとまだ第三会議室の入り口に立ったままの部下に目配せをした。部下の男も一つ頷いてから前に進み出た。
「君、これに内蔵されているICチップの中身を確かめたいから借りてもいいかしら?」
アメルデがそう聞きはしたものの、キラには実質選択の余地はなくほとんど強制のようなものだった。もし断ったとして、それはどうしてと言う話になってしまうのだ。キラは今「キラ・ラズハルト」であることを証明する必要がある。そのための過程の一つを拒否するとなれば怪しまれても仕方がなくなってしまう。
「ええ、大丈夫です。ただその、今日中に帰ってきますか……?」
「ええ、確認したらすぐに返すから。なあに? 今日バイクに乗ってきたの?」
「あ、いやそう言うことではないんですが……」
「まあ、預けっぱなしと言うのも不安よね」
アメルデの部下の男性はアメルデからキラの運転免許証を受け取ると、内蔵されているICチップの情報と、先ほどのキラの証言の照会のために第三会議室を出ていった。