第123話 警察の到着
「ホーロンさん! 警察の方がいらっしゃいました!」
第三会議室に出入りしていた職員のうちの一人がそうホーロンに伝えた。それは潜めた声ではなかったので、もちろん同じ部屋にいたキラにも聞こえていた。ホーロンは、分かったすぐに行くとその職員に返すと、キラの方にまで来て言った。
「警察が来たそうです、私は彼らを迎えに行ってきますから、ラズハルトさんは今しばらくこちらでお待ちください」
「はい、分かりました。よろしくお願いします」
ホーロンはカルーセルに自分がいない間の指示を出すと、第三会議室を出て行った。
ホーロンは廊下を走りはしなかったが、それでもガツガツと早足で進んだ。表の市民が使う方の出入り口ではなく、荷物の受け取りなども行われる、職員向けの出入り口まで行くと見知った人物が連れと思われる男と共に立っていた。
「アメルデ警部!」
「ああ、ホーロンさん、こんにちは」
「急に来ていただいて、ありがとうございます」
「いいのよ、いつも私たちが急に押しかけているもの」
アメルデ警部は、キラの自宅だったアパートとユニバーシティ、それからこの役所が存在している惑星メカニカのセーラン地区を管轄してる警察署の警察官である。いわゆる敏腕女性デカというものだったらしいが、警部となった今でも本人の興味が尽きないのかなんなのか、こうして少し変わった事件や事件とも言えないようなものにも首を突っ込むことがよくある、らしい。女性の憧れる女性として人気なのだと、以前彼女と捜査のために来ていた部下の刑事が言っていた。
ホーロンは調査内容の詳細までは知らないものの、署には内緒にとか言いながら役所にくるアメルデの捜査の協力をさせられていることがしょっちゅうある。正直な話、善良な一市民としても役所の一職員としても、そこそこの頻度で来るのは勘弁してほしいと思っていて、いつかキッチリ借りを返してもらうぞとは再三言ってきたのだ。しかしその借りをまさかこんな予想し得なかったもので返してもらうことになるとは思わなかった。
ホーロンは厳選した職員にキラ・ラズハルトのことを騒ぎにならないように時々ぼかして伝達したのちに、人が来ない外付けの非常階段の踊り場でアメルデに電話をかけたのだった。
「はい、こちらアメルデ。そちらからかけてくるなんて珍しいわね、ホーロンさん。何かあったの?」
「アメルデさん、借りを返してもらいたいんだ。あんたと、あんたの信用できる人間だけで、内密に役所まで来てくれないか?」
三コールで電話に出たアメルデにホーロンはすぐにそう切り出した。人が来ない場所とはいえ、できるだけ声を張らないように、人に気づかれないように小さく早口で話した。
「どうしたの? 急に」
「キラ・ラズハルトを名乗る人物が現れた。四ヶ月前に《翡翠の渦》に巻き込まれた五人目だ。免許証と保険証を確認したが確かに本物だ」
「それは……」
「とにかく来てほしい。俺たちだけじゃ手に負えん。ただ本人が大きな騒ぎ……、マスコミなんかに知られて騒がれたくないんだろうな。飛ばされた星で宇宙を旅してる人間に出会えて頼み込んでここまで連れてきてもらったと言っているんだが、その人に絶対に迷惑かけたくないんだそうだ」
だから静かにきてほしいと続けたホーロンに、アメルデはしばらく黙った。ふんふんと相槌のような声がホーロンのスマートフォンからしていたから、何度か見たこともある彼女の考えているときの癖が出ているようだ。
「分かった、幸い今日は仕事が詰まっていないの、すぐ出る。そうね、私と、私の部下一人で行くわ」
「申し訳ない、頼んだ」
そうして本当にすぐに出てくれたのだろう、アメルデはホーロンが予想していたよりも早く役所に現れた。