第122話 数人の大人たち
ホーロンは大きく息をつきたいのをため息に見えるからとなんとか堪えて、立ち上がった。
「ひとまず、私たちのみで解決できることではありませんから、警察にも連絡させていただきます。知り合いの警察官がおりますから、そちらに連絡させていただいてもよろしいですか? もちろん、なるべく内密に進めるようにいたします」
「……はい、お願いします」
キラは個人的な警察官の知り合いなどいないため、ホーロンに任せることにした。なんとなくだが、これまでのほんの少しの会話と、もちろん本物だがキラ・ラズハルトを名乗る人間への対応から、この人はきちんとしたできる大人なのではないかと感じ取っていた。
しかしそれからが大変だった。ホーロンにとってもカルーセルにとっても、キラにとっても。警察に来てもらうとなると、ホーロンに権限がある程度あるとしても報告なしにすることは流石にできず、根回しをしておく必要がある。つまり、役所の職員で知らせなければいけない人が増えるのだ。ホーロンも騒ぎにしていいことはないと思っているため、知らせる人物を厳選し、内容を重苦しい雰囲気で伝えるようにし、伝える作業は自分がやるから他の人間には口外しないようによくよく言い含めた。
ホーロンはそれから警察に連絡して、これまた内密に、静かにくるように頼んで、それでようやくキラの元に戻ってきた。
ホーロンがよくよく言い含めたからか、今はそのホーロンが部屋にいるからか、あれから第三会議室に入ってくる職員たちはあからさまにキラの方をまじまじと見てくることはなかった。キラはチラチラこちらを見てくる視線には気がついていたものの、これくらいは仕方がないかと素知らぬふりをして出してもらったお茶を一口、口に含んだ。
第三会議室に入ってくる職員たちはバタバタと何やら書類などのものを運んできたり、ホーロンに報告や相談をしにきたりしていた。ホーロンは各所への連絡を終えて戻ってきてもキラの目の前に座ることはなく、そのまま第三会議室に入ってくる数人に指示を出していた。この数人にはもちろんカルーセルも入っている。
だからキラは今手持ち無沙であった。キラは何かしら行動をとるという意味では大変ではなかったが、心情的にはこの場にいる誰にも負けないくらい大変である自信があった。風も雨も落ち着いているという台風の目にも台風の目なりの大変さというものがあるのだ。とはいえ、これから警察が来てもっと大変になる。
そうして、キラはため息にはとられないように、しかし大きく息を吸い込んで鼻から吐いた。心の中ではもっとあからさまに大きくため息とわかるため息をついていた。しかし、この部屋に入ってくる数人の大人たちは最初はチラチラとこちら見ていたものの、今はもう手に持っている仕事が忙しいらしくこちらを見てくる気配も少ないので、静かについたため息になら気づかれなかったかもしれないと思った。
キラはパイプ椅子に深く腰掛けて、いつもよりも猫背の姿勢で、もうすでに何だか疲れてしまっていた。
ホーロンが呼んだ警察の到着まで、間も無くである。