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第115話 キノさん


「キラはその郵便局に行ったことがあるの?」


 郵便局にもキラの先導で向かっていた。ただ昨日、アパートメントに向かう時とは違って通信機でマップを見ていなかった。それにもかかわらず迷いなく歩いていたので、ニジノタビビトはそう考えたのだ。


「ああ、まあ、郵便局って色々使うし……」


 キラは様々なアルバイトを経験してきた。一番長く勤めていたのも一番多く勤めていたのも賄いが出る飲食店だったか、これ以外にも短期のアルバイトをいくつか経験してきた。その中に、郵便局でのアルバイトがあったのだ。配送のための仕分けなどを行うのは大きい郵便局であるため、これから訪れる郵便局では実は五年前に一度、二週間と少しだけ働いていたことがあった。

 五年前でたった二週間、こちらが誰がいたかどうかすら覚えていない上に、短期のアルバイトは毎年何十人も雇っているはずなので、あちらも覚えていないだろうし打ち込みをするぐらいではバレないはずだ。そもそも、自分は裏方、これから必ず対面しなくてはならないのは受付の人だけなのであまり心配はしていなかった。

 そういうわけで、自分の部屋があったアパートメントの位置がわかった今、キラはあの郵便局に行くルートには自信があった。


「レイン、悪いんだけど、受付はお願いしていいか?」

「うん、もちろん。アレなら外で待ってる?」

「いや、一緒にはいるよ。けど一応、人と面と向かって話さないようにはしようと思うんだ」


 郵便局の前の道路を挟んで向かい側の歩道に立って段取りを確認していた。キラはニジノタビビトの半歩後ろ、できるだけ隠れるように、しかし変にオーラを出すことなくただの着きそいだという雰囲気を持って立つようにする。段取りを確認し終えた二人は、五メートル先の横断歩道を渡って郵便局へと足を踏み入れた。

 惑星メカニカの郵便局は落ち着いた雰囲気で、床はローズウッドのフローリング、柱やむき出しの梁は同じようなダークウッドの木材で、壁は漆喰。キラも入ったことのある裏側は機械が設置されている都合上、コンクリートの壁と床なのだが、主に客が入るこの場所はまるでオシャレなカフェのようでもあった。

 何人かが待っているようで整理券が発行されていたので、まずそれを一枚とって空いている席にキラが奥になるようにして並んで座った。何人かが待っていると言っても片手で足りるほどだったのですぐに窓口に呼ばれ、用件を申し出た。


「あの、星外にメッセージを送りたいのですが……」


 ニジノタビビトが機械の仕様などを案内されている間、キラはその会話を耳に入れながらも、窓口横に置いてある期間限定の切手を手持ち無沙汰に見ている風を装っていた。その内心では「今俺はキラ・ラズハルトじゃない、今俺はキラ・ラズハルトじゃない」と自己暗示をかけるように必死に唱えていた。


「よし、行こう。キ……キノさん」

「……ん」


 危なかった。小声とは言えニジノタビビトがキラと読んでしまうところであった。しかしその後は何事もなく、二人も自分で驚くような集中力で無事に打ち込みを終え、本文にも返信用の恒星や惑星の番号、座標とそこが仮の場所である旨も記載できたし、料金も払い終えた。ありがとうございましたと窓口に説明書を返却してできるだけ落ち着いて見えるようにと思いながら、そそくさと外に出て来た道を引き返した。

 しばらく歩いてもうすっかり郵便局が見えなくなって、周りに誰もいなくなった頃にようやく早足になっていた足を止めて、同じタイミングで互いの顔を見た。


「「危なかった!」」


 ふ、あははは! ピッタリ同じことを言ったものだから何だか面白くなって、これまた同じタイミングで、同じように噴き出して笑った。


「ハハ! はあ……ごめんね、うっかりしてた」

「アハハ! いや、俺もすっかり失念してたし、よく切り替えられたな」

「うん、なんとかね」

「それにしてもキノか、なんかいいな……」


 キラは咄嗟にニジノタビビトから発せられた「キノ」が何だか気に入っていた。



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