第114話 変装と郵便局
メッセージを受け取るための座標の問題が解決したので、キラとニジノタビビトはカプラの部屋の住所を座標に変換してメモしてから身支度を整えて、郵便局に向けて出発する準備をしていた。もちろん、キラは簡単な変装を欠かしていない。今日は昨日よりも確実に人が多いところに行くので、気をつける必要があった。
「よし、こんなもんか?」
もう一度すでに変装をしてしまったので、恥ずかしさというリミッターはとうに外れていた。元々なかったようなものだが、ニジノタビビトがあんまりにすんなりと受け入れるものだから、無意識の羞恥心で抑えていたものが外れてもう少し強めにやってもいいかと思ったのだ。
今日は昨日に加えて色々調べてみたので、よりキラ・ラズハルトだと分かりにくくなっているのではないかとキラは自分でも思っていた。着替える前に、やっと自分の通信機が使えるようになったので、色々と「変装の仕方」と検索窓に打ち込んで調べた。まさかこんなことを調べる日が来るとは思わなかったが、今のキラにとっての最優先事項はニジノタビビトが誰かに後ろ指をさされることなく無事に虹をつくり終えて次の星へ飛び立つことであるので、その為ならばちっぽけなプライドと羞恥心くらい喜んで捨てる。
調べたところ、変装において重要なのはやはりいかに地味で馴染むかどうかということらしい。顔を隠したいからと言って、メガネやサングラス、マスクに深く帽子をかぶっていたらそれは不審者の面立ちになるから逆に目立ってしまう。それならば帽子と、あってメガネくらいでちょうどいい。キラは視力がいいし、伊達メガネも持っていなかったので帽子のみだが、普段帽子をかぶってこなかったので、これだけでも問題ないだろう。
そして変装においてもう一つ大事なのは常識のラインを見極めることだ。キラはもうすっかり変装に慣れた手練れように「大事なのは地味であること、奇抜よりも常識のずれの方が目立つ」なんてことを心の中で誰かしらに説きながら鏡の前で前髪をいじった。
本日のキラの出立ちは白いTシャツの上にグレーのシャツを羽織り、黒のパンツ、それから昨日もかぶっていたキャップだ。あまり昨日と変わっていない。変わったのは羽織るシャツの色と髪型、それとキラ曰くアンニュイコーデとしてシャツの片方の肩を落としているポイントくらいだ。
「キラ、準備できた?」
「おう、どうだ?」
「……うん、なんていうかあんまりキラっぽくないと思う」
「よしよし、それが目標なんだ。それじゃあ行くか」
本日郵便局で送信するメッセージはあらかた決めてもう下書きを終えている。これを大体決めておかなければいざ打ち込むときに変に文字数が増えてしまって大変なのだ。ラゴウとケイトに三回目のメッセージを送ろうというとき、まあいけるかと思って下書きを箇条書きぐらいにしたら、いざ打ち込むときにどんどん文字数が増えて最終的に少し削ったりもしたのだ。それからはきちんと準備をした上で郵便局に行くようにしていた。
今回はあらかじめ考えていたものに加えて、昨日あったことを少し書き加え、さらに返信のための座標も記載しなくてはいけなかった。昨日のことは箇条書きの下書きしかできていないがこれくらいは仕方がない。
キラの家であったアパートメントよりは遠いが、星外にメッセージを送信できる郵便局は歩いて行ける距離にある。これまで何度かさまざまな星でメッセージの送信をしてきたからこそ分かったことだが、宇宙船着陸許可地から近い郵便局はたいていどこもメッセージの送信が可能だった。これはおそらく、宇宙船の乗って訪れた人々が星外へのメッセージ送信を行う客層の幾らかを占めているためだろうと二人は考えていた。