第113話 キラの座標
つつがなく朝食を取り終えたキラとニジノタビビトが次にすることは、カプラにラゴウとケイトからのメッセージを受け取るための座標にキラの部屋をしてしても良いか聞くことであった。
そもそもどのようにして「メッセージの送信を行なっているのか」だが、ファックスと手紙の掛け合わせのようなものである。
星外へのメッセージの送信を請け負っているのは郵便局で、大きな郵便局でのみ行われている。その郵便局でも、端っこの方に打ち込みのできる機械が設置されている場合が多く、その機械の台数は街の規模や人口、その星が他の星と留学などの交流が盛んであるかどうかで変わってくる。
郵便局に設置された機械に恒星の番号、惑星か準惑星か衛星か、星の番号、座標、宛名そして本文を記入し、本文の文字数に応じた料金を支払うことで、後はコンピューターが打ち込まれた星の座標に最も近い郵便局を弾き出し、送信をおこなってくれる。その後は送られた現地の郵便局がそれを刷り出して指定された座標に届けてくれる仕組みとなっている。
座標とは住所が変換されたものであるが、住所そのままではなく、座標が採用されているのは座標は数字のみで表しているのに対し、住所はその星の文字や言葉が採用されていて他の星からの場合そもそもキーボードでの打ち込みが叶わないためである。座標の場合は数字のみのため、配達の際には住所に変換をする必要があるのだが、それくらいの手間は致し方のないことであった。座標は違う星では同じ数字の場合があるが、同じ星の中ではもちろん同じ数字の羅列は存在していない。
ちなみに、本文は普通に文章であるため、ラゴウとケイトは読めない文字なのだが、そこは送信元の星がわかっているのでそこから翻訳をしてもらっている。といっても、星を選択した上でカメラで読み込めば一発で翻訳してくれるので、大した手間にはなっていないはずだ。
「――あ、カプラさん? キラです、キラ・ラズハルトです。おはようございます、昨日はお世話になりました。その、昨日お願いしたいことがあったのを忘れていて……はい、あの、宇宙を旅してくる間に出会った人からのメッセージを受け取るために、俺の部屋だったところの座標を指定したくて……はい、はい……ありがとうございます! はい……」
キラは通話を続けながらニジノタビビト方に親指と人差し指で丸を作ってみせた。キラもニジノタビビトもおそらくカプラであれば許可をしてくれるだろうなと思ったのだが、実際にオーケーを出してもらえて安心した。
「え? ……はい、でもいいんですか? はい、ありがとうございます。それでお願いします。……じゃあまたすぐ行くと思いますので、はい、よろしくお願いします」
キラは通信機の通話終了のボタンを押すと、ニジノタビビトにカプラと何を話したのかを詳しく話し始めた。
「まず、座標の指定はオッケーだって。それで、俺の部屋じゃなくてカプラさんの部屋を受け取りの座標にしてもいいって」
「それはまた、どうして?」
「ほら、俺が帰ってきたことをまだ知られると色々面倒だった話をしただろ? あの部屋は今誰のものかって言ったら契約上はもうカプラさんのものに戻ってるんだ。まあしばらくいなくて家賃も払えてなかったからそれは仕方ないんだが……」
キラは家賃を毎回カプラに手渡ししていたので、《翡翠の渦》に巻き込まれてしまって以降払えているわけもなかった。
「それで、俺が帰ってこれた以上はあの部屋の新規の契約は取らないでいてくれるらしいんだけど、契約上はあの部屋に住人がいないのにメッセージの送信が、しかも星外からされるのは変な話だろうって」
だから座標の指定先のみをカプラの部屋にして、代理で受け取ってくれるというのだ。
「なるほど……」
「返事が返ってくるまでにあの部屋がどうなっているかは分かんないけど、念の為そうした方がいいかと思って、お願いしたんだ」