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第107話 あったかい、こわい


「あ、大丈夫、すぐ行く」

「そうか……? あっカプラさん、それくらい俺が運びますって!」


 ニジノタビビトはまだ玄関から動けなかった。キラがすぐに気がついて聞いてくれたが、自分でもどうして動けないのかがよく分からなくて、適当に返事をするしかなかった。それでもキラはまだニジノタビビトのことを気にしていたが、本人が大丈夫だと言っているのに無理に引っ張るのもあれかと思って、夕食の支度をしているカプラの手伝いに行くことにした。

 本来であればニジノタビビトも手伝いに加わるべきなのだろうし、そうするつもりだったが、もう少し、もう少しだけ待って欲しかった。


「あったかい、あったかいから、こわい」


 この暖かさを知った上で、またひとりぼっちに戻ってしまったら。キラと出会うまでひとりぼっちでもときどき肌寒さを感じるくらいであったが、もうきっと手遅れなのだろうと思った。

 キラと四ヶ月という長いけれども一生を見たら短いとも言える期間一緒にいた事でまたひとりぼっちに戻った時に寂しくて、寒くなることは分かっていた、知っていた。でも、ふと改めて自覚してしまったのだ。この、キラがいて、自分にありがとうと言って受け入れてくれるカプラもいて、いつの間にか時間が経っているような濃い時間をキラと過ごして、夕方になってきたら暖かい部屋で、暖かい料理をこさえて待っていてくれる人がいる。

 ニジノタビビトがこの三人で迎える暖かい食卓というのに直面したのは初めてのことでも、もうきっと戻れやしないと理解するのは簡単だった。

 そして、このオレンジが視界の端を染める光景にキラがいることが当たり前でも、自分がいることは特殊なのだと言い聞かせていた。





「「いただきます!」」

「はい、どうぞ。めしあがれ」


 ニジノタビビトはキラとともに手を合わせて食前の挨拶をした。ニコニコしたカプラのテーブルを挟んで向かい側にキラとニジノタビビトが並んで座っている。

 テーブルにはカプラが腕によりをかけて作った料理が所狭しと並んでいた。大切に思って可愛がっていた子はもはや死んでしまっている可能性の方が高く、生きていても自分が生きている間にはもう会えないだろうと思っていたのに、その子が、キラが無事に帰ってきてくれたことが嬉しくて張り切ってしまったのだ。

 カプラにも作りすぎてしまったという自覚は当然あったので、無理して食べなくていいと告げたが、キラは自分で調整ができるとはいえ結構な量を食べられること、ニジノタビビトもこの暖かさを失う怖さを忘れるために食事に集中したこともあって、すっかり皿の上は空っぽになってしまった。

 それでも腹十分目、ニジノタビビトは腹十分目より少し多くまで食べてしまったので片付けをする前に食休みをとっていた。もちろんキラもニジノタビビトも片付けは自分達がするつもりであった。

 その時、二人のためにお茶を入れてくれたカプラが言った。


「そうだわ、キラくん。キラくんが《翡翠の渦》に巻き込まれてしまってからね、お友達のセージさんという方が何度もいらしていたのよ。キラは帰ってきていませんかって」

「えっ、セージ?」

「ええ、そう。それできっとキラは生きているって、帰ってくることがあったら連絡をいただけませんかって言っていたものだから、さっきお電話しておいたわ」


 今日この後いらっしゃるらしいけれど。そう続けられたカプラの言葉にキラは失敗した、と思った。カプラに自分が帰ってきたことはまだ秘密にしておいて欲しいということを頼むのを忘れていた。

 キラは何としてもニジノタビビトに迷惑をかけずに無事に虹がつくられて、かつ無事に宇宙に向けて飛び立つのを見守らなくてはいけない。その為ならば自分の多少の犠牲は厭わないつもりだった。

 ……ところで、セージとは誰だっただろうか?



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