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第106話 背高のっぽの影


「レイン、教科書に興味があるならいくつか持っていくか?」


 キラがハイスクールの教科書を残していたのはひとえになんとなく捨てるのが勿体無くて機会を逃していたからであった。しかし、進学して以降、結局読み返す機会というものはなかった。だからこれをニジノタビビトが欲しいと言うのであれば、あげてしまった方が活用してもらえることだろう。

 キラは地べたに座ったニジノタビビトの横に置かれた書籍の詰められた段ボール箱の中から教科書をバサバサと取り出し始めた。底の方にあった教科書を取り出すために一緒に出した書籍は多少大雑把に箱に収めた。このままでは蓋を閉めた時に水平にならないが、これくらいなら後で整理し直せばいいかと思ったので適当にした。

 キラはニジノタビビトの目の前にきちんと文字が正方向になるように並べた。


「これが古文、惑星メカニカで昔使っていた言語と物語の教科書で、こっちが数学、物理、化学、地学、生物、歴史、政経、それが学年ごとにあるやつもある。どれか気になるやつあるか?」

「えっ、えっと……、物理、かな?」


 それからニジノタビビトが興味を示したことについてキラがなんとか昔の授業の記憶を引っ張り出したり、ときどき通信機で仔細を調べたりしながら話をした。ニジノタビビトは学校に行っていたか定かではないのに、ハイスクールの教科書の内容を理解するのが早かった。キラも理解力のあるニジノタビビトに説明するかいがあって次第に白熱しはじめて、もう一度段ボール箱を開けてノートを引っ張り出しては床に色々広げながら話をした。

 ニジノタビビトはどうやら理系、特に数学や物理、化学なんかが強いようだった。しかしあの虹をつくるためだけに存在しているような宇宙船や、虹をつくるための仕組みとカケラを生成するための機械を開発したのが記憶を失う前のニジノタビビトだとしたらそれも頷ける。やはり今は記憶喪失になってしまった結果その専門的な一部も欠落してしまっているのだろうか。



「あっ、やば、もう夕方だ! 一回カプラさんのところ戻ろう!」


 ふと顔をあげたキラは部屋の中に伸びる影が随分と背高のっぽになったことに気がついて通信機のロック画面の十メモリの時計を見て瞠目した。

 キラは自分たちを中心にサークル状に広げられた教科書とノートをどうするか逡巡して、とりあえずまとめてトントンと揃えると段ボール箱の少し浮いた蓋の上を押さえつけるようにして乗せてしまった。

 それからキラは慌ててキッチンとお風呂場の窓を閉めて鍵をかけてから、きちんと一度玄関のドアをそっと開けて外に人がいるかを確認してニジノタビビトと共に外に出て階段をかけおりた。


「あら、もういいの?」

「すみません! ちょっと本読み出しちゃって……」

「ふふ、お片付けとか荷解きするときのあるあるね」


 カプラの部屋のインターホンを鳴すと、暖かい空気と、お腹の虫催促するような匂いを伴ってエプロンを身につけたカプラが出てきた。カプラの部屋からは晩御飯のいい匂いがしていて、それが鼻腔を刺激する。

 ニジノタビビトは知らない感覚を味わっていた。キラと共に料理をするのとは似ている暖かさがありながら異なる感覚。なんだか視界の端がオレンジ色になってチカチカしているような気がしてニジノタビビトは玄関で足を止めてしまった。


「レイン? どうした?」


 ニジノタビビトが玄関から動かないことに気がついたキラが振り返って聞いてくる。この細く短く伸びた廊下の先をニジノタビビトは知りたくて、知ったら戻れない気がして怖かった。



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