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第105話 暇の中の退屈


 だいたいの段ボール箱を見終わったキラは最後に洗面所に置いてあった段ボール箱を開けた。


「あっ、タオルはこっちかあ……」


 先程見た衣服の入った段ボール箱には入っていなかったタオルと、未使用の洗剤がビニール袋に入れられて収められていた。

 全てざっと見て分かったことだが、カプラは殆どのものをとって置いておいてくれていた。なくなっていたのは食品類と下着類、それから風呂場の使いかけの石鹸類だった。今日は宇宙船ではなく、この部屋に泊まらせて貰う未来があるかとも思っていたのだが、これは厳しいかもしれない。今から石鹸を買いに行くか、それともどこかシャワーを浴びれるところを探すか……。

 口をへの字にして色々と考えながらキラはニジノタビビトがいる洋室へと戻った。ニジノタビビトは何やら本を真剣な様子で見ていた。


「レイン? なんか面白いもんでもあったか?」

「…………あ、キラ」


 キラの声にすぐに反応せず、ふた呼吸ほど置いてからニジノタビビトは顔を上げた。


「何見てるんだ?」

「これ、キラのハイスクールの時の教科書? かな……?」


 ニジノタビビトが見ていたのはキラが昔使っていた教科書だった。それは国語の教科書だったので短編の小説もいくつか載っている。


「なんか小説とか、物語が読みたいのか? それなら他に単行本がいくつかあるけど……」

「あっ、いやその、物語もそうなんだけど、こういう学校で使われてる教科書って見たことなくて、物珍しくて……」


 キラはそこでなるほどと思い至った。ニジノタビビトは記憶喪失となって一人目覚めてからずっと、記憶と理由の分からない使命感で虹をつくり続けてきたのだから、教科書を見たことがないのにも頷ける。

 ニジノタビビトはすでに室内で、限られたもので時間を潰すプロだと言っても差し支えない。

 ニジノタビビトは、虹をつくるために生きてきた。しかし過ごしてきた時間のほとんどは星々の移動だった。効率を見るという点においては星を選ばず、同じ恒星の周りを回る人が住んでいる惑星や準惑星、衛星などを片っ端から訪れていくというのがいいだろう。さらにいえば食料を補給するだけの星など決めずにそこでも虹をつくれる人を探せばいい。

 それを分かっていながらニジノタビビトがそうをしなかったのは二つ理由があった。一つはニジノタビビトという存在が話題になることを避けるため。ニジノタビビトは感情の具現化という禁術とされているような行為をおこなっているからこそ、実際には問題という問題がないとはいえ、念には念を入れてニジノタビビトという存在が伝わるよりも先に次に行きたかったことがある。二つ目の理由はあってないようなものだが、ニジノタビビトとしてはこちらの方が理由としての比重が大きかった。その理由ともいえない理由は、単純になんとなくそうしたいと思ったから、であった。

 ニジノタビビトがこの虹をつくるための旅を始めた時、何もかもが分からなかった。しかし、初めてできた虹を見たその時、記憶のようなものが見えそうになったその時に虹をつくる理由を一つ見出すことができたのだ。それ以降は本当に思いつきで虹のカケラから得られたエネルギーで多少の猶予を持っていける最も遠い人のいる星を選んでいた。その方が知らないことを知れる可能性があるかもしれないと思ったこともある。

 そういった旅を続けてきたこともあって、ニジノタビビトの移動時間というものは長かった。その間、身体能力が衰えないように小型のエアロバイクとランニングマシンを使って運動したりだとか、次に行く星について調べたりだとか、本を読んだりとかしていた。動画や電子書籍もいくつか見たのが、これらはダウンロードのための手続きが星々で違うため多少面倒なこともあって実物を手に取ることの方が多かったのだ。それでも時間というのは有り余るもので、その暇の中に訪れる退屈な時間を潰すのがニジノタビビトは上手かった。

 しかしそれもキラと旅をするようになってからは話し相手ができたこともあり、暇の中の退屈どころか暇な時間すらほとんど訪れなかった。



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