第103話 キラの部屋だったところ
キラはとりあえず、段ボール箱にまとめられているという自分の物を確かめるために、元自分の部屋に行ってみることにした。鍵は変わっていないということだったので、元々持っていた鍵をそのまま使って部屋に入ることが出来る。ニジノタビビトにどうしていてもらうか少し悩んだものの、カプラと二人きりにするのもあれかと思ったので、一緒に来てもらうことにした。ニジノタビビトとしても、キラの部屋だった場所に興味があった。
「それじゃあ、カプラさんちょっと上にいますね」
「ええ、ええ。また戻ってくるのかい? それなら今晩一緒に晩御飯食べないかい?」
「ああー、どう、しようかな」
ニジノタビビトのことが頭をよぎる。キラは惑星メカニカにいた時によく食事を一緒にさせてもらっていた。それは十年以上前に旦那さんを亡くして子供もいなかったカプラが寂しがったというのと、キラが苦学生であることを知っていて心配していたためだった。
ニジノタビビトもキラのコミュニケーション能力が高いことは知っているが、キラは人との程よい距離感を掴むのが上手い。相手のラインを無意識のうちに見極め、一定の距離を測り、踏み込んだ方がいいタイミングもなかなか間違えない。ラゴウのときは賭けの部分が大きかったが確かにうまくいっていた。
「キラ、私のことは気にしないで、ご一緒しておいでよ。それでまた明日会いに来て」
「あら、レインさんもよければ一緒にいかがですか?」
「え……、私もいいんですか?」
「ええ、もちろん。是非一緒にどうぞ」
カプラがそう言ってくれたこともあって、キラもニジノタビビトも今日の晩御飯はカプラと共に取ることにした。改めてカプラにそれじゃあと言って、キラはニジノタビビトを連れてカプラの部屋を出ると、外付けの階段を上がって二階の、一番奥の部屋の前に立った。
キラはポケットの通信機を近づけてピッと電子ロックを解除したあと、指紋認証をして鍵を開けて、ドアノブに手をかけた。ここもキラが入居する前は電子ロックではなく、旧式の実物の鍵を使っていたらしいのだが、昨今のセキュリティ意識の向上と、空き巣被害削減のための政府の方針で、入居者を増やすためにも全ての部屋を最近メジャーな電子ロック生体認証付きのものに変えたのだ。一応、多少の補助金が自治体から出たらしい。
この部屋の指紋認証にはキラと大家さんしか登録されていない。つまりこの部屋のロックの指紋情報この二人のどちらかが変更あるいは追加しない限りは誰も入れないようになっている。
ちなみにキラは通信機がインターネットに繋がっていなかったために分からなかったが、自分以外の人間が解錠すると通信機にちゃんと通知が行くようになっている。
「レイン、中へどうぞ」
キラは一歩玄関に踏み出してくるりと見回した後に後ろを振り返って声をかけた。この部屋はもうほとんどというか契約的にはキラのものではない状態のはずなのに、まるで普通に友人を自宅に招いたような感じで少しおかしかった。