第101話 もしもこの星に二人ぼっちだったなら
「こっちだな」
キラはニジノタビビトを先導して歩くのがなんだか少し不思議な気分だった。ここはキラの生まれ故郷の星で、ニジノタビビトがこの星に訪れたのは初めてのことだったので当然のことと言えば当然のことなのだが、いつだって自分のことを導いてきてくれたのはニジノタビビトだとキラは思っていたので、なんだか少し気合が入っていた。しかしニジノタビビトだってキラに導いてもらったと思ったことはある。ラゴウの虹はキラがいなくてはつくられなかったものだとニジノタビビトは、きっとラゴウとケイトだって思っている。
この街にはそこそこ大きな駅と、そこそこ大きなショッピングセンター、閑静な住宅街なんかがあり、キラの住んでいたアパートメントは中心街から外れたところにある。その理由は単純に駅から遠ければ家賃が安いからである。キラは自転車でユニバーシティに通っていたので、多少駅から遠くてもなんとかなるのだ。それにキラの通うユニバーシティは学部も学科もコースも多いので、広大な敷地を要することからも最寄り駅から約一キロメートルのところにある。ただキラの住んでいたアパートメントの最寄り駅とユニバーシティの最寄り駅は隣駅だったのでちょうど良かった。
散歩道のような穏やかで人気のない林を揺れる木漏れ日の中キラの先導で二人は歩いた。宇宙船の着陸許可地であることは知らなかったとはいえ、キラは地図上であの海沿いの何もない土地や、今通っている林、これから道中にある野原があることは知っていた。しかし、こうも静かで鳥の声がときどきしているくらいだと、キラは自分がこの星に戻ってくるまでにこの星の人々の誰も彼もがいなくなってしまったのではないかと思ってしまう。鳴り止まなかったキラの通信機の通知の日付を見るに、決してそんなことはないことを知っているのだが。もし、もしもこの星に二人ぼっちだったなら、自分はどうするのだろうか。ふと、キラはそう思った。
ときどきキラは通信機のマップで現在位置とルートと方角を確認しながら進んだ。とはいえ、それは最初だけですぐに見慣れた道に近くなり、通信機はポケットにしまった。
「レインごめんな、もう少しで着くから……」
「いや、いいんだよ。キラは惑星クルニの緑多さに驚いていたみたいだったけど、ここの星も穏やかで素敵なところだね」
野原を突き抜けてしばらく歩いた頃に、キラがニジノタビビトを気遣うようにして見た。もうすでにしばらく歩いていたが、これくらいであれば宇宙船着陸許可地から街までの距離として至って平均的であったで、疲れを感じるほどではなかった。
ニジノタビビトは、知っている星に訪れたことは一度もない。もちろん、食糧補給のために立ち寄る星も、虹をつくる人に出会うためにいく星も、移動中の有り余る暇な時間にタブレットで事前にどんな星かを調べたりしたものだが、どのようなところなのかはいつだって本当の意味で分かったことはない。
しかし、この惑星メカニカにくるまでにニジノタビビトはキラに度々惑星メカニカの話をするようねだった。それはキラのことが知りたいからであったり、会話の糸口を探るためであったりしたが何より、最初にキラが惑星メカニカのことを話している時の顔が忘れられなかったのだ。
ニジノタビビトが惑星メカニカの話を聞いてくるのは食糧調達だとか、虹をつくる人を探すにあたっての情報収集だとキラは思っていたが、ニジノタビビトにしてみれば、惑星メカニカなんかよりもずっと、キラの方に重きを置いていたのだ。
「あ、見えた。ほら、あそこの緑の看板の奥の、赤茶色の屋根のアパート!」
閑散とした住宅街をしばらく歩いた先、キラの指差すところには少々こじんまりとした二階建てのアパートメントが見えていた。