独占欲強め系女子と不憫すぎる宮本くん
今回は、平和に、明るく楽しくかけたと思います……!(たぶん)
「はぁ……」
私は桜崎ゆみ。小5。
好きな人がおります。けれど、別に今の溜息は私の好きな人関係ではない。決めつけないで、ね?
おっとしまった、語尾を強調してしまった。しちゃいけないって親友に言われてたのに。なんでも、私が睨んだり怒ったりするとトラウマ生産機と化してしまうらしい。おかしいな?私、そんなに怖い?別に私、悪役令嬢顔してるわけでも、会ってすぐに殴ってくるわけでもないのに。ただ人よりちょっと本を読んでいるだけなのに、なぁ。ただ人よりちょっと根暗なだけなのに。ってなに言わせてんじゃボケ。喧嘩売ってんのかコラ。あ?……今のがヤンキー風である。ヤンキー風の罵倒の仕方。
「はぁ……」
「どーしたの?本日53回目の溜息だよぉ?ゆみ」
親友の赤坂さおりが話しかけてきた。私の悩みの原因が自分にもあるとはつゆ知らず。さおりは、一言で言うと小柄清楚系美少女。ちょっと……いや、だいぶ天然入ってる。けど溜息の回数数えてるとか意外に抜かりがなくてちょっと怖い。ま、そこをひっくるめても可愛いんだけど。本当に、同性の私から見ても本っっっっっっっ当に可愛い子だ。本人は自覚ないけど。
「いや……。別に……」
私はずっと上の空。いや、別にさおりが悪いというわけではない。うん、ぜんぜん悪くない。むしろさおりは被害者。あのクソ男が全部悪い。
ところで……私、2つ名が2つあるんだよね。1つは、『絶対に怒らせてはいけない女』で、もう1つが『独占欲強め系女子』だってさ。
◇◇◇◇◇
1日後。
はぁ……。あのクソ男……。
クソ男とは、私とさおりのクラスメイト、宮本涼介のこと。
思い出すのは、さおりと私、それからもう1人の親友である美玲としている交換日記に書かれていた内容。
やはりこの年になると色恋沙汰云々どうたらこうたらというような話が多くて、その中で私が今最も気がかりなのは……。さおりに邪な思いを抱いているというクラスメイト、宮本涼介である。
いつもなれなれしくさおりに近づいて、それをさおりも何とも思っていない……いや、むしろ満更でもないような態度をとっている。さおりと気が合うみたいだ。さおりと共通の話題を持っているあの男が羨ましくて、気にいらなくて、いつも塩対応をしている。八つ当たりですが、何か?
しかもあの男、さおりに親しくしているくせに他の女……あの、むかつくデブ女とも仲良くしてるし。ていうか向こう完全に宮本に気があるし。
宮本涼介。スポーツ万能。頭もわりといい。女の私よりも可愛らしい顔立ち。(むかつく!)人当たりが良いともっぱら噂。とっつきにくい性格。私に睨まれてもへらへら笑ってる変なやつ。私の好きな人の親友。2010年12月20日生まれ。(さおりと誕生日が1日差なことがさらにむかつく……!)
出来るだけ情報を集めた。もし、もし本当に、さおりも宮本のことが好きなのなら、その時は私は涙をこらえて祝福しなければいけない。
◇◇◇◇◇
ある日。
私は親友の赤坂さおりと松木美玲と、それはそれは楽しく談笑していた。
そして美玲は、さおりが席を外した一瞬に、私に言った。さおりが行った方向――宮本涼介がいる方向を忌々しく見つめている私に。
「ゆみ。いくら宮本のことが気にいらなくても、自分で手を下しちゃだめよ。昔から、『人の恋路を邪魔するやつは、お馬に蹴られてしまえ!』とか言うじゃない?」
美玲は私の本好き仲間だ。私はそれを書いてある本を読んだことがある。
「ま、それもそうだね。けど……恋路を邪魔出来るなら、お馬に蹴られるのも本望だと思わない?」
◇◇◇◇◇
その日、私とさおりはいつも通り通学路を歩いて下校していた。
と、そこに、歩く災いこと宮本涼介がこっちに歩いてきた。通学路が同じとか呪われてるとしか思えない。
せっかく平和な時間だったのに。束の間の幸せだったなぁ。
ここから、私は戦わなければいけない。
「こんにちは宮本くん」
「あぁ、こんにちは赤坂さん」
ああ、早速さおりと宮本が接触している!趣味の話で盛り上がってるし!なんと羨ま……良くないことなのでしょう!
私は割り込むようにして2人の間に入る。
「あら宮本くん。まさかこんなとこで会うなんて……私は神様に見放されているのかな?」
作戦①。とりあえず本音を言ってみる。
「ひどいなぁ桜崎さん」
作戦②。無視。
「ところでさおり。虫を追い払うための服……持ってきてるよね?」
「へっ?あぁ、持ってきてるけど……何に使うの?」
さおりは虫が本当に苦手だ。そして、今は4月の半ば。虫がわく季節になってきた。だから、私がいつもさおりに群がる悪い虫を追い払っているのだ。……他意はないよ?
私はさおりの服でさおりにつく悪い虫こと宮本涼介を追い払う。
「えっ?ゆみ、どこに虫いるのっ?きゃっ!」
さおりがあざとさいっぱいの台詞を言う。計算じゃないとこがずるいと思う。
「桜崎さん!?こっちに虫、いないけど!?」
宮本も虫が苦手らしい。男子のくせに、そんな女子らしい台詞を吐くとは。むかつく。私は虫なんか怖くないのに。
宮本は虫が自分だとは思っていないよう。
作戦③。さおりと宮本を半径3m以内に近づけない。
宮本がさおりに目算63㎝近づいた。すかさず私は間に入ってさおりと宮本を遠ざける。それを計31回繰り返した時、とうとう宮本が折れた。
「何で!?」
「半径3m以内に近づかないでくださいな?」
語尾を強調して圧をかける。けれどこの男は全くひるまない。むしろどこか嬉しそうにへらへら笑っている。何が嬉しいのだろう。もしかしてドⅯ?
「あなたのことが嫌いです」
「だから、何で!?」
知らない。分からない。……さおりが私の、人生で初めて出来た友達だから?
「さようなら。もう二度と会いたくないです」
「えっ、ちょっ、ゆみ!何でそんなこと言うの?」
「ひどいなぁ、仲良くしたいのに」
最後に気持ち悪い台詞を吐きながら、宮本涼介は帰っていった。
……私、バカだなぁ。いくら悪い虫を撃退したって、さおりに嫌われたら意味ないのに。
◇◇◇◇◇
桜崎ゆみは儚げな美人だ。普通は美少女、なのだろうけど、桜崎ゆみは本当に儚げな美人なのだ。
そんな彼女に俺は恋をした。指の間からさらさらと零れる黒髪、少し不安気にこっちを見る瞳を見れば、ご理解いただけると思う。
けれど、彼女は俺の親友、岡本大樹のことが好きだった。一瞬だけ、ほんの一瞬だけ、大樹のことを始末しようかと思ったが、俺がヤンデレだと勘違いされては困るし、大樹のことは親友として普通に好きなので、止めておいた。
そして、もう1人、俺の恋路を邪魔するやつがいた。桜崎の親友、赤坂しおりだ。
少し茶色っぽい髪に、整った可愛らしい顔立ち。確かに美少女だ。けれど……。
最初俺は、赤坂と仲良くなれば、赤坂は桜崎の親友なので桜崎とも仲良くなれると勝手に思っていた。だが、それは大きな間違いだったのだ。赤坂も親友を手放したくないようで、やたらと俺に絡んでくるし、桜崎には完全に警戒対象と認識されている。この前も、
「ゆみは宮本くんが私のこと好きだと思ってるみたいだよ?どうするの?ゆみのこと好きなんでしょ?完全に警戒対象になってるんだけど~。私に不用意に近づくからじゃん~。…………………………私、絶対に宮本くんをゆみの彼氏にしたくないから」
と言ってきた。くそっ。性悪女め!桜崎の前が別人みたいな豹変ぶりだ。……女って怖い。
せっかく桜崎と5年連続同じクラスになれたのに、あの女のせいで全く進展していない……いや、ちょっとはしたな。悪い方向に。
はぁ……。
だが、神様は俺を見捨てなかったらしい。下校途中に桜崎と性悪女が歩いているのを見かけた。俺はもちろん声をかけた。桜崎に。
「こんにちは宮本くん」
くそ、何で桜崎に声かけたのにこの女が返事すんだよ!?けれど、ここで無視すれば、ただでさえ泥棒猫を見るような目で俺を見て、会うたびに好感度が減少していっている桜崎の好感度がさらに下がる。それだけは避けなければいけない。
「あぁ、こんにちは赤坂さん」
「あら宮本くん。こんなところで会うなんて……私は神様に見放されているのかな?」
あぁ……どうしてこうなった?
「ひどいなぁ桜崎さん」
「ところでさおり。虫を追い払うための服……持ってきてるよね?」
「へっ?あぁ、持ってきてるけど……何に使うの?」
桜崎は赤坂の服でこっちを払い始めた。
「えっ?ゆみ、どこに虫いるのっ?きゃ!」
赤坂が気持ち悪い台詞を吐く。天然なところがよけいイラつく。
「桜崎さん!?こっちに虫、いないけど!?」
かくいう俺も虫が大っ嫌いだったりする。
俺が赤坂に少し近づくと、すかさず桜崎が割り込んできた。また俺が近づくと、やはり桜崎が割り込んでくる。
それを計11個目の素数と同じだけ繰り返した時、俺の心は完全に折れた。
新種のいじめなのだろうか?泣いていい?
赤坂は桜崎のかげに隠れて余裕そうな勝ち誇った笑みを浮かべている。
率直に言ってうざい。
「何で!?」
「半径3m以内に近づかないで下さいな?」
本日2回目。あぁ……どうしてこうなった?
誰に、と言えばもちろん赤坂にだ。自分で言ってて悲しくなってくる。
俺と桜崎の間にある壮大な勘違いの壁。
「あなたのことが嫌いです」
「だから、何で!?」
どうして、こうなった?
宮本涼介少年の初恋終了のお知らせ?
「さようなら、もう二度と会いたくないです」
「えっ、ちょっ、ゆみ!何でそんなこと言うの?」
最後に、悪足搔きでもしようか。
「ひどいなぁ、仲良くしたいのに」
俺は明日、最後に正当なやり方で、桜崎に想いを伝えることにした。
◇◇◇◇◇
何この男。
それが私の宮本涼介への第一印象だった。
男のくせにゆみより可愛らしい顔立ちをして、いつもゆみのことを見ているこの男が、私は大っ嫌いだった。
私はゆみを……そう、溺愛している。
いや、私の恋愛対象は男だよ?まだ恋とか、したことないけど。だから、この前お母さんの部屋で見た本の、その、女の子同士が愛し合っている……みたいなことは断じてないから!!私は変態じゃない!
愛でるべき存在を愛でているだけ。そこに友情こそ発生するが、恋愛感情は全くない。……本当だからね?
だって、ゆみ、本当に可愛いんだもん。
さらさらの黒髪、整った顔立ち、こちらをどこか不安そうに見つめてくる余計な感情が全く入っていない純粋な瞳。将来は立派な大和撫子だね!とよく言われる|(本当に言われてる)ような和のオーラ。
だから、宮本涼介に会った時、ついにこの時が来たか……なんて思ってしまった。
もし宮本涼介がゆみに害を及ぼすことがあったら私は許すことができない。だから、私はいろいろな方法を駆使してゆみと宮本を遠ざけた。
今思うと、本当に無意味で最低なことをしていたと思う。
親友に向けられる好意を無下にし、離れてほしくないと自分勝手に思ってそれを実行に移したのだから。
そして、ゆみが私と宮本に両想いになってほしくないと思っているのが分かって、嬉しいと感じる私も心のどこかにいる。
……絶対に私、地獄行きだよ。
きっとゆみには会えないだろう。あんなに素直で、良い子なんだから。
私がなぜここまでゆみのことを好きなのか?理由は、私とゆみが小2だった年の夏にある―――――
☆☆☆☆☆
ミーン、ミーン……
そう、それは確か、セミの鳴き声がとてもうるさい夏のことだった。
私は近所の公園で遊んでいた。丁度、遊ぶ相手がいなくてつまらなく感じ始めていた時だったと思う。
「誰か、遊んでくれるひといないかなぁー」
「どうかしましたか?」
そう言って現れたのが、ゆみだった。すぐに仲良くなって、ゆみも色々と自分のことを話してくれるようになった。同い年とは思えないほど大人びていたゆみは、遊んでいてどこか悲しそうな顔をすることがあった。
それで、たぶん、肝心のきっかけに繋がる会話は、本当に他愛のない言葉だったと思う。
「……。そういえば、ゆみのお母さんって、どんな人なの?」
私がそう言うと、ゆみは一瞬寂しそうな、複雑そうな顔をして、私に微笑んだ。
「私のお母さん、ですか。私には、お母さんはいないんです。けれど、もし今も生きているのなら、きっ
と今も、さおりみたいに優しくて、よく笑う、楽しい人だったんじゃないでしょうか」
その時、私は初めてゆみの前で泣いた。こんな風に誰かのことを思って泣くのは初めてで、私は自分のことながらとても戸惑ってしまった。そんな私をゆみはお母さんのように慰めてくれて、ぽつりぽつりと自分の過去について話してくれた。
幼い頃にお母さんが病気で亡くなったこと。
お母さんを愛していたお父さんがそのことで自暴自棄になってしまったこと。
お父さんが毎晩家に違う女性を連れてきたこと。
お父さんの借金を返済できなくて、ゆみが孤児院に預けられたこと。
里親さんが見つかって、とても優しくしてくれたこと。本当の両親を思い出して、泣いた夜のこと。
どれもまだ小学校低学年だったゆみには、受け止めきれないほどの重くて哀しい現実だ。
この事件がきっかけで、私とゆみはいつも一緒にいるようになった。
私はゆみが愛されなかった分、たくさんゆみを可愛がって、たくさん愛してあげようと決めた。
私が笑うと、ゆみも花が咲くように綺麗に、美しく笑う。その笑顔が、私は大好きだった。
☆☆☆☆☆
……とまあ、そういうお話でした。ちょっと恥ずかしい。
ところで、ゆみは自分が私を溺愛して、可愛がっている、自分はそこまでいうほど愛されていない……なんていう風に思っているけれど、実際は違う。
私はゆみのことが好きだし、出来る事ならば一生傍にいて、恋人も何も作らないでほしい。けれど、それは私の願望だ。その願望でゆみの将来を、幸せな未来を潰してしまいかねない、身勝手なもの。私はゆみの幸せを願えない。その事実が、私の心を縛りつけて放さない。たまに、純粋無垢な、私の大好きなはずの花が咲くようなゆみの笑顔を見る時、どうしようもない罪悪感で押しつぶされそうになる。
たぶん、ゆみはいつか私の手から離れていく。その時、私はどうすればいいのかわからない。けれど、いや……だから、今は、せいいっぱい私が可愛がる。ずっと彼氏なんて作ってほしくないけど、ゆみが望むなら私は何も出来ない。ゆみが私の目の届く範囲にいる時は、今だけは、私からゆみを奪わないで……なんて思ってしまう。ゆみは私の所有物じゃないのに。
ゆみが宮本涼介が私のことを好きで、私も満更ではないらしい……なんていう根も葉もない噂を信じて、自分は要らないんじゃないか、邪魔者なんじゃないかと思っていると知った時は、不謹慎だけど嬉しかった。ゆみが宮本に威嚇している時も、嫉妬してくれているということがわかって、何とも言えない満足感が心を満たした。
そんなことを考えている自分に少し嫌気が差して、私が顔を上げると、視界にゆみの顔が映った。さっきまで私が上の空だったことにちょっと怒っているような、こっちに私の心が戻ってきて安心しているような、そんな表情。
私が笑うと、ゆみも笑った。初めて会った時から変わらない、あの、花が咲くような笑顔。
私がここに、この、ゆみの隣の位置に立てていることが、その笑顔を独り占めできることがたまらなく嬉しくて、思わずにやけてしまう。
ゆみはそんな私を見て、不思議そうな顔をしていたが、すぐに、歩道を歩いている野良猫に興味が移った。
私は、野良猫と戯れる親友を見て、静かにさっきまでゆみと繋いでいた手を握りこんだ。
◇◇◇◇◇
「さおり、さおり……」
「………………………………………………………………………………………………………………………………ん?」
ずっと上の空だったさおりの意識がこっちに戻った。もしかしたら妄想の世界で宮本とお楽しみ中だったのかもしれない。そう考えると少し宮本に腹が立ったが、さおりが幸せなら私はそれでいい。
「あ!」
通学路の先に野良猫がいた。さおりによく似ている、茶色の毛並みにつぶらな瞳のそれはそれは可愛らしい子猫ちゃんだ。
私はさおりと繋いでいた手を離して、さおり子猫ちゃんの方へ走っていった。
そして、さおり子猫ちゃんの頭を撫でながら、はたと気がつく。
……これでもしさおりに何かあったら?私はさおりよりも猫を優先したってことになる。それはダメ、絶対ダメだ。けどさおり子猫ちゃんも可愛い。どうする、私、これこそ究極の選択!じゃあさおりにここまで走ってきてもらって……それもダメだ、さおりの純粋無垢な体を穢してしまいかねない。どうする、考えるんだ、私!
今思えばバカなことを考えていた。子猫ちゃんとさおり、どっちが大事なのかなんてすぐ分かるのに。
けれどその時の私は無意識のうちに宮本に気が取られていて正常な判断が出来なかったのか……結局その場で悩み続けた。
気がつくとさおりがこちらに来ていて、天使としか思えないような顔で笑っていた。
その笑顔を見て、私はさおりに笑いかける。
ずっとこのまま時が経たなかったらいいのに、なんて思った私の腕の中で、さおり子猫ちゃんがにゃーん、と、幸せそうに欠伸した。
ミーン、ミーン……
さおりと会った日のようなセミの鳴き声が、かすかに聞こえた気がした。
お読みいただき、ありがとうございました。
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小鳥遊家絶滅物語-小鳥遊家におくられたぬいぐるみAIの真の目的-
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を、連載中です。
ただ、明るく、楽しいお話ではありませんので、苦手な方はご遠慮ください。