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3/5

格下と格上

 ララリアが魔法使いを志したのは、生まれつき魔法の才能があったという単純な理由だった。中でも火を生み出す魔法に魅入られ、より大きくより荒々しい火――――炎を操る魔法使いに強く憧れた。

 貧民街出身の彼女が自身の魔法を生かせる場を求め、冒険者になったのは必然だったと言える。そして冒険者生活の中で炎魔法を磨き続け、ついには"炎炎(えんえん)"と呼ばれるようにまでなった。


 生まれつき<魔力向上>と<魔法力向上>という強力なスキルを持ち、炎魔法ただ一点を磨き続けた。

 炎魔法については、どんな冒険者にも負けない。彼女はそれを疑わない。


 事実、炎魔法の攻撃力に関しては宮廷魔法師でさえララリアには及ばない。

 さらに強力な炎魔法を完全に制御するに至った魔法制御の技術は、他の魔法使いを圧倒するものであった。


「…………やばい」


 それを最初に見たとき、ララリアが発したのは素直な言葉だった。

 彼女を庇う位置で大剣を構えるアカシャから怪訝な視線を感じたが、気にしている余裕はほぼなかった。


「ララ?」

「ステータスに<看破>が効かない」


 魔法使いがまず最初に取得する職業である魔法師。そのスキルのひとつである<看破>は、あらゆる事柄を見破る。

 <看破>のスキルを持つ冒険者は、対峙する相手のステータスに対して看破のスキルを使い、見破れた度合いによって相手との実力差を判断する。見破れたステータスが少なくなれば、その分だけ相手が格上であると判断できる。


「…………格上ってことね。レベルは?」


 ララは自分よりレベルが高い。<看破>はレベルに依存するスキルであることを鑑みれば、ララリアがステータスを見破れない相手は自分よりも格上だと言える。

 しかし凶悪な魔物と日常的に戦う中で、ララがレベルと種族くらいの情報しか見破れない相手と戦うことは日常茶飯事だ。

 当然、格上相手には慎重になる。冒険者は身体が資本だ。高級なポーションでも回復できない深傷を負えば、どんな冒険者でも一線を退かざるをえない。


「違う、アカシャ――――レベルも……わからない」


 その発言にさすがの彼女も息を呑む。確かにやばい。

 レベルすら看破できない格上。それは、絶対的な差があることを意味するのだ。




 数刻前。歩けども果てが見えず、延々と続く大森林をクダンは彷徨っていた。


 何故か身体の疲れはあまりないが精神的な疲労が蓄積し、「この世界、森しかないのでは?」と謎の愚痴を言い始めてから、どれだけ経っただろうか。もはや、ウキウキしながら"探索"を始めた頃の気分など、とうに消え失せていた。


 クダンはゲームで森や荒野より場所より、遺跡とか廃墟などをよく探索していたプレイヤーだ。無論、必要があれば探索に行っていた。しかしダンジョンと言えば遺跡と考える人間である。特に森などは好き好んで行くやつの気が知れないとさえ思っていた。


 もうそこらへんの木に近くに座って昼寝でもしようかと思っていた時、人の気配を感じた彼がその方向へ全力ダッシュしたのは言うまでもないだろう。少し速度が異常であったことなど、些細なことなのだ。


 その結果、人間の身長と同じくらいの大剣を構えた女と魔法使いのローブを着た女――たぶん魔法のローブ――が敵意を剥き出しにして、クダンを睨んでいた。しかし当の本人は予想外の事態に首を傾げていた。

 

 武器も"展開"していないのに、どうして警戒されてるんだ。それに微妙に怯えられているような気もする。全力で走ったせいで乱れた息も姿を見せる前に整えたし、見た目だって普通――――ん?


 色々あって……そう色々あったのだ。気がつけば大森林で。どこを見ても木にしかなく。謎の頭痛で。理解した状況に頭を抱え――――あまりに異常事態が続いた。さらには、ゲームではそれが"普通"であった故に違和感がなかったのだ。

 改めて自らの姿を確認すると、何故か貴族っぽい服(・・・・・・)を着ていた。

 いや、貴族っぽいというか。これは『シン・ミストルテイン』のコスプレ装備として人気だった男性用の"バトルドレス"だ。それに魔力の宿ったグローブと空間魔法が付与されたブーツ――間違いない。間違えるわけがない。


 これは、ゲームでクダンが非戦闘時の装備としてよく使っていたものだ。

 さらに――半ば確信しつつ――手を頭の方へ持っていく。あぁーあるなぁ……角が。

 クダンの種族である魔人は、ゲームの仕様で一部のキャラの見た目が強制的に変化する。いくつかの抜け道を使えば、変化を誤魔化すことができたが、どうにもならない部分もある。頭の一本角がその最たるものであった。

 自分が本当にクダン・ローランになったことを再認識し、状況を冷静に分析する。


 ゲームでは、人間種と魔物種は基本的に敵対関係であった。

 中立である龍人や龍人が庇護する獣人など一部の人間種は魔物種と交易などを通して交流があったが、一般的な人間種は魔物種を恐れて近づくことさえしない――――という感じの設定だったはずだ。

 クダンは世界観を積極的に調べるプレイヤーではなく、むしろ攻略に必要な最低限の情報をネットで調べる程度であった。定期的に行われたゲーム内のイベントでも、ポイントを得るためのルールを確認する程度であり、イベントストーリーなどは一切読んでいなかった。


 きちんと読んでおけばよかったと反省しつつ、この状況をどうにかしようと意識を対峙する二人に向ける。

 そこでクダンが認識したのは、眼前まで迫った女が燃え盛る大剣を振り下ろそうとする姿であった。

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