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プロローグ

 数多くある没入体験型MMORPGの一つ『シン・ミストルテイン(Sin-Mistilteinn)』。

 最盛期には世界で500万人のプレイヤーが集った人気ゲームである。


 没入体験型は専用機器を用い、五感をゲームのキャラクターと共有し、現実で身体を動かすのと同じようにゲーム内でキャラクターを操作するゲームのことだ。



 幾多、製作されたMMORPGの中で『シン・ミストルテイン』が数多くのプレイヤーに魅了した点として、自由すぎるキャラクターメイクが挙げられる。

 見た目パーツの選択肢の多さは勿論のこと、自身で作成したデータをアップロードし、キャラクターとして使用することができた。このフリークリエイトと呼ばれる機能により、ゲーム内におけるキャラクターの見た目は無限大に広がった。

 実在するアイドルやハリウッド俳優を模したキャラクターが溢れ、規制の対象になってしまったことさえある。


 そしてMMORPGとして、最も違う点を挙げるとするならば、それはレベルに上限が存在しない(・・・・・・・・)ということだ。一般的なMMORPGは定期的にレベル上限が徐々に開放されるゲームがほとんどであったが、プレイヤースキルに強く依存する『シン・ミストルテイン』において、レベルは強さを示す要素のひとつでしかない。

 プレイヤーのレベルは種族よって、レベルアップに必要な経験値は異なる。レベルは基本的に3桁を超えたあたりから上がりにくくなり、そこから先は種族によって大きく差がある。

 

 また、一定の条件を満たすことで、別の種族になる"転生"のシステムを用いれば、初期選択できない種族になることも可能である。初期から選択できない魔物種などはこの方法を用いる必要がある。

 微妙にレベルの上がりにくい変わりに全体的に高いステータスを持つ魔物種であるが、プレイヤー人気はあまり高くない。転生するとレベル1になるので転生システム自体が不人気ということもあるが、魔物種は村や街などの安全地帯に入ることができない。例外として、所属するギルドが所有しているダンジョンなどのエリアは安全地帯となる。

 

 

 ギルドが所有するダンジョンなどはギルド建造で作成する他、ギルド対戦で別ギルドから奪うことができる。

 ギルド対戦は攻撃側、防衛側に分かれて行われるギルド間の戦争コンテンツだ。

 相手側のプレイヤーを全滅させれば勝利という至極単純なルール。防衛側は防衛設備やNPCなどのオブジェクトを配置することができるが、配置できるオブジェクトはエリアによって異なる。そのため攻撃側のプレイヤーは多種多様な対策が対戦ごとに必要になる。

 逆に攻撃側の特権として、複数のギルドによる同時攻撃が可能だ。報酬が自動分配になってしまうが、やり方次第では圧倒的な人数で防衛側を押し潰せる。

 

 

 さて、数多行われたギルド対戦で、数多くの大手ギルドから「攻めるだけ無駄」「攻略不可能」「非公式ラスダン」と言われたダンジョンを作ったギルドがある。

 

 

 ゲームマップの最北端に存在する草原を本拠地としたギルド「黒き御旗」。転生条件の比較的難しいレア種族のプレイヤーのみで構成された小規模ギルドであり、膨大な資金と資材が必要なギルド建造を繰り返し、塔型の高難易度ダンジョンを何もなかった草原に建てたギルドだ。


 ローランの塔。

 かつて多くのギルドから"エンドコンテンツ"と称されたギルド「黒き御旗」が所有する塔型ダンジョンの正式な名前である。

 全三十階で構成されるローランの塔であるが、その上層部に到達したプレイヤーはそう多くない。ギルド対戦において、最上階まで到達したプレイヤーはたった3人を数えるのみである。




 最盛期には毎日のようにギルド対戦が行われていたが、塔にも数多くのギルド対戦を仕掛けたが、それも過去の話。




 『シン・ミストルテイン』が開始から7年のサービス終えようとしていた日。

 一人のプレイヤーがローランの塔の最上階、ダンジョンの核であるダンジョンコアが存在する階で佇んでいた。

 

 クダン・ローラン。

 ギルド「黒き御旗」の創設メンバーの一人であり、サービス終了のその日までギルドマスターを務めたプレイヤーである。

 漆黒の鎧と紅のマントに魔剣を携え、頭に一本の角を生やした人間種。魔人という魔法適正が非常に高い種族だ。職業はダンジョン内で有利戦うための構成になっている。全プレイヤーの中でも数えるほどのプレイヤーしか取得条件を満たせなかったダンジョンマスターという職業は、その主たるものと言えるだろ。


 サービス終了の一時間前、起動するだけで維持コストが発生する設備を余すことなく起動し、1日の召喚時間に回数制限があるNPCも全て召喚した。サービス終了前の大盤振る舞い。ローランの塔は過去最高の難易度のダンジョンとなっている。

 

 フレンドリストを開き、過去に所属していたメンバーがオンラインでないことを一人ずつ確認する。

 最後にログインしたメンバーが半年前。もはや誰も来ないだろうと半ば確信しながらも、それでも確認せずにはいられない自分の未練がましさにクダンは苦笑する。


 クダンが待っているのは、ゲームのサービス終了まで残った有象無象のプレイヤー達ではない。

 ダンジョンというコンテンツが大好きだったかつての仲間たち。超大型ダンジョンを作るという馬鹿げた計画に賛同し、共に時を過ごしたギルドの創設メンバーたちだ。

 

「…………やっぱり誰も来ないか」

 

 溜息交じりに壁に埋め込まれた大きな水晶――――ダンジョンコアに触れる。


 『シン・ミストルテイン』において、一般的なプレイヤーがダンジョンを作る理由は基本的に経験値を得るためだ。敵対プレイヤーがダンジョン内で倒れると、倒れたプレイヤーのレベルに応じて、ダンジョンコアに経験値が溜まる。

 ダンジョンコアに蓄積された経験値はコアが破壊された時、破壊したプレイヤーが所属しているギルドに与えられる。これにはそのダンジョンを所有しているギルドも含まれており、ある程度の経験値が溜まったらダンジョンコアを破壊し、ギルドメンバーに分配するという寸法だ。

 

 しかし、ローランの塔のダンジョンコアは一度も破壊されたことがなかった――――まぁ、破壊寸前までいったことはあるが。

 

 懐かしい過去を思い起こしながら、ダンジョンの管理機能からダンジョンコアを破壊するためのコマンドを選択する。

 それは皆で溜めた経験値が使われもせずに消滅させることが憚られたから。それだけの理由だ。されど現実で仕事を休み、ゲーム内の多くのプレイヤーが大きな街に集まったり、記念写真を撮ってSNSに投稿したりしている中、全てを差し置いて、クダンがここに訪れた理由でもある。

 ダンジョンコアにひび割れて弾けた瞬間、長年溜め込まれた膨大な経験値がギルドのただ一人の所属メンバーであるクダンに与えられる。


「おぉ……すごいな」


 "ダンジョンは30分後に消滅します"というメッセージが表示されたかと思うと、レベルアップの通知が嵐のように連続表示され始めた。

 これ、サービス終了までに止まるのか?

 一抹の不安を感じつつ、止まる様子のない通知を眺めていると、しばらくして称号などの獲得通知に移り、少し安堵する。一度に多すぎる経験値を取得したためにバグったわけではないようだ。


 ――――

 ――プレイヤーレベルが上昇しました。

 ――プレイヤーレベルが上昇しました。

 ――条件を満たしました。

 ――称号:殺戮者を獲得。スキル:殺戮陣を獲得しました。

 ――条件を満たしました。

 ――称号:超越者を獲得。職業:超越者が選択可能になりました。

 ――条件を満たしました。

 ――称号:ダンジョン王を獲得。職業:ダンジョンマスターがダンジョン王に進化します。

 ――条件を満たしました。

 ――スキル:次元横断を獲得。職業:次元魔法師が選択可能になりました。

 ――――

 

 という具合にやばそうな称号と職業、スキルが羅列されるのを見て思わず笑いが漏れる。

 

「ははは。マジで見たことない称号とスキルばっかりだ!!」

 

 こんなレベルまで到達したのは自分だけだろう。という愉悦感を存分に楽しみながら、見たことも聞いたこともない称号とスキルに否応なしにテンションが上がる。せっかくだからと思い、写真を撮るためのコマンドを連打する。

 

 ――――

 ――条件を満たしました。

 ――称号:神域の越境者を獲得。職業:超越者が魔王に派生進化します。

 ――条件を満たしました。

 ――称号:神格の簒奪者を獲得。職業:魔王が魔神に進化します。

 ――条件を満たしました。

 ――称号:混沌を齎した者を獲得。スキル:混沌爆破を獲得しました。

 ――条件を満たしました。

 ――称号:神格者を獲得。スキル:原初魔法適正を獲得しました。

 ――――


「そうだ。後であいつらにも送ってや――――」


 ――――覚えているのは、ここまでだった。


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