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The Story of Christmas

Advent

作者: 藍田 恵

 数字がついた小さな扉を開けると、中から小さなお菓子が出てくる。

 クリスマスツリーが描かれた長方形の薄い箱に入っているお菓子はキャラメルだったり、マーブルチョコレートだったり、アイシングの人形だったり、時々小さなおもちゃだったりする。そのおもちゃの中にはクリスマスオーナメントなんかも入っていた。

 オーナメントはもうかなりの数になっていて、私の部屋の小さなツリーを(にぎ)やかしている。それを見るたび、私は初めてアドベントカレンダーを手にした日を思い返す。

 幼なじみの男の子のお母さんからもらった、不思議な箱。

「いちにち、ひとつずつ、あけていくんだよ。ここの、かずのじゅんばんだよ」

 女の子より色白の、絵本に出てくる天使みたいな顔をした男の子が、頬を紅潮させながらそう教えてくれた。

「どうして、にじゅうよっかまでなの? へんなの」

 カレンダーなのに中途半端な日数に、私はつい突っ込んで男の子を困らせた。

 12月は年末だ。31日は除夜の鐘。もういくつ寝るとお正月になるか、ちゃんと知っている。それなのに24日までなんて、明らかに変だと思ったからだ。

「クリスマスイブまで毎日開けられるのよ。25日はサンタさんからプレゼントが貰えるから、24日までなの」

 男の子のお母さんはくすくす笑ってそう答えた。

 あの頃は、隣近所に子供が少なくて、年が近いのはその男の子くらいだった。だから、一緒に遊んでいただけ。

 そう。それだけ。

 あれから再開発で高層マンションが建ち始めて、子供の数が急に増えた。

 私は女の子たちと遊ぶようになって、あの子も男の子たちと遊ぶようになった。

 それなのに、アドベントカレンダーは毎年届く。

 男の子のお父さんはドイツの人で、私に奥さんの幼い頃の幻影を見ているせいか何故かやたらと世話を焼いてくれた。

 数年前にドイツ本社に呼び戻された時、息子には日本の教育を受けさせたいから、という理由で妻子を日本に残す決断をし、それ以来11月の終わりには私の手元に男の子経由でこの贈り物が届くようになった。

 グミとかおもちゃがメインだったそれは、高級スーパーでしか見られないような有名メーカーのものに変化してきて、男の子はいくぶん呆れ顔でそれを渡しにくる。

「今年も香澄によろしくってさ」

 自分で渡せばいいのに、と面倒そうに言うのはもはや恒例だけど、今年ばかりは仕方ない。

 変な伝染病が流行しているせいで、彼のお父さんはなかなか日本に来られない。お国では外出禁止令が出て、家の外にすら出られないみたいなのだ。

「ありがとう、直人くん。おじさんにもよろしく伝えておいて」

「ん」

 ヨハン直人くんは少し頬を紅潮させた。少し照れ臭く思っている時の、いつもの表情。

「残念だったね。今年は会えなくて」

「まぁこういう状況だし。ネットがあるから顔を見ながら話せるし」

「それにしてもいつまで続くんだろうね、これ。早く旅行できるようにならないかなぁ」

「そういえば親父が、いつか香澄をドイツのクリスマスマーケットに招待したいって言ってた」

「えっ行きたい! いいの?」

「母さんも喜ぶと思う。マーケットには女の子と出かけたいって言ってたし」

「わーいっ、やったー」

 思わず小さくジャンプしてしまった。それに合わせて、箱の中身がからからと鳴る。

 でも。

「ま、この状況じゃーあと数年先かな。とりあえず受験までに行けるといいんだけど」

「全然気にしないよ。私、グリューワインとか飲んでみたいもん」

 実はドイツのことは結構調べている。アドベントカレンダーの意味も、それ以外の文化や行事も。

「…結構大人になってからの話だな。まあ、それもいいけど」

 心なしか横顔がさっきよりもより赤くなっているように見える。

 このままお酒が飲める年齢まで、アドベントカレンダーを届けてくれるつもりなのかな。

 家路に向かう男の子の背中を見送りながら本場のクリスマスマーケットを一緒に歩いている姿を想像してしまい、その想像に一人頬を火照らせた。

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